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アメリカ陸軍内部告発者チェルシー・マニング


チェルシー・エリザベス・マニグ/Chelsea Elizabeth Manning(1987年12月17日生れ、アメリカ・オクラホマ州出身)

彼女がウィキリークスに流した機密情報は当時アメリカ史上最大で、ほぼすべてのアメリカの外交活動に影響を及ぼした。

マニングからウィキリークスへの手紙
「イラクとアフガン戦争の報告書は21世紀の非対称戦争の最重要証拠である。」




2007年にアメリカ陸軍入隊、大学の奨学金目当てだった、父親はもと軍人、イラク戦争で人員が求められていた時期に本人は何か自分の意義を探しておりプログラミングのスキルが役に立つかもしれないと気まぐれで応募した。

2009年に情報分析官としてイラクに送られる

軍の機密を知る程幻滅し、自分の信念から反し魂が壊れゆく。違和感だらけで落ち着きを失い口答えが多くなる。本当の自分を求めていたマニングは、ウィキリークスのリーク募集に反応した。公開すべき公共のデータでありみんなに真実を知ってもらいたい、民間人虐殺なんかを問題視する私がおかしいのだろうか?一生刑務所に入れられようが処刑されるとしても気にしないだろう。女性だと自認し恋愛対象は男性だった、毛嫌いされても自分を偽ることはできなかった。

2010年2~5月にかけて、軍や国務省のネットワークに侵入しウィキリークスに75万件以上の文書や映像などの機密ファイルを漏洩する。

不確かさの感覚のなか、情緒不安定で精神崩壊寸前だった。とても我慢できそうにない、銃で額を撃ち抜きたいぐらいだった。上官にメールで自身の女装した写真を送りジェンダーアイデンティティの苦しい問題を打ち明けた。どんなに取り除こうとしてもだめだった。それは終わらない悪夢のように苦痛と混乱を引き起こした。今やもう自分がここにはいないように感じた。ナイフで椅子にI WANTと刻んだりと、奇行が目立つようになっていった。些細な事で監督官の女性兵に叫び頬を殴りつけ、銃を取り上げられ異動させられた。

2010年5月、相談したチャット仲間に密告されマニング上等兵の情報提供がばれる。イラクで逮捕され、クウェート南部の米軍基地キャンプ・アリフジャンに移送される。寝具で首つり自殺を試みる。抗うつ薬を処方される。

2010年7月、本国バージニア州クワンティコにある海兵隊基地に移送される。狭い独房に一日中閉じ込められ、午前5時から午後7時までは姿勢を崩すことも居眠りも許されずただじっと座らされた。囚人服で首を吊らないようにと、夜間全裸で眠ることを強要された、スモックと呼ばれる自殺防止の服を着せられた、眠れない程寒い監房には布団も枕もない。照明は常時点灯、翌朝の点呼は幾人もの前で裸のまま立たせられる。ストレスでおかしくなりそうで、一人怒鳴り散らし歌った。

2011年4月、カンザス州にある陸軍施設レブンワース砦に移送される。そこで初めて一般の囚人と話ができた。

2013年8月21日、軍法会議でスパイ活動防止法その他20件で有罪となり懲役35年の実刑判決を受ける。これは機密漏洩では米史上もっとも重い刑に当たる。重警備の男性軍人を収容するアメリカ合衆国教化隊に移される。同被告は二等兵に降格されすべての給与や手当を失い、不名誉除隊に処された。 裁判開始まで逮捕から3年以上経過している。

2013 年8月22日、NBCのニュース番組TODAYでマニングの声明文が公表された。我慢の限界に達し自分はトランスジェンダーだとカミングアウトした。看守からは嫌がらせを受ける。

2014年4月、性別違和の治療を収監中に受ける権利を求め国防総省を相手に訴訟を起こし、耐え難い苦痛を味わっており精神的に危険な状態にあるとの診断により、裁判所によって性別変更が認められ、もとの名「ブラッドリー・エドワード・マニング 」から女性名に改める。

2014年9月、女性用下着が支給される。

2015年、アメリカ陸軍史上初、女性へと転換するホルモン治療を受けることが許可される。

2016年7月、性同一性障害の手術を認められないことから、自殺未遂を起こしていた。

2016年9月9日から性転換手術を求めてハンガーストライキを続け、13日に軍はそれを認めた。しかしこの手術は、刑務所から釈放される前までには行われなかった。

2016年10月、情報当局の監察官に宛てた4ページに及ぶ文書で、予告もなく独房監禁処罰を受け、その日の夜に自殺未遂。

2017年5月16日、オバマ大統領の恩赦により釈放される、7年間服役していた。

2018年6月26日の予備選挙で、メリーランド州の連邦上院議員に立候補し、現職の民主党員に敗れる。

2018年10月に性別適合手術を受ける。

2019年3月、ウィキリークスに関する大陪審の捜査への証言を拒否し、法廷侮辱罪に問われ女性棟に収監される。

2019年5月、判事は異例の選択として、非協力が続くならば勾留30日以降は1日500ドル、60日以降は1日1000ドルの罰金を課すとした。

2020年3月11日、自殺未遂

2020年3月12日、米バージニア州東部地区連邦地裁判事がマニング氏の釈放を命じる。

制裁として256,000ドルの罰金が課せられたが、その名声からサポーターが立ち上げたクラウドディングにより48時間以内に、合計267,000ドルの寄付が集まった。また、マニングの出所後の生活費の支払いを支援するために、さらに50,000ドルの寄付が集められた。


マニングが流出させた資料内容

アメリカ軍のアパッチが2007年7月にバグダッドで民間人を虐殺した映像で、ロイター通信のジャーナリスト2人を含む十数人が死亡した。(コラテラル・マーダー)

約48万件のアメリカ陸軍報告書が公開され、アフガニスタンとイラクの戦況について軍の説明が、いかに事実とかけ離れたものであるか明らかになった。

25万件以上の世界中のアメリカ大使館・領事館から国務省に送られた外交公電(Cablegate)

グアンタナモ収容所の収監者たちについての報告書

アメリカの外交官による諜報活動や犯罪的な隠蔽

エジプト・チュニジア・リビアなどの国家の悪事について、それが2011年に北アフリカや中東でアラブの春を促したらしい。



映画『XY Chelsea』(2019・アメリカ/イギリス)

チェルシーマニングについてのドキュメンタリー映画。バラク・オバマによる恩赦で刑務所より解放されてからを密着し、その時点を中心として彼女の半生が綴られる。
軍事機密漏洩は人命に関わる恐れがあるというのは副次的な懸念に過ぎず、実際にイラクやアフガニスタンで大勢の民間人が殺されている証拠を封じ込める言い訳にはならない。マニングが服を脱がされ檻に閉じ込められるような拷問を受ける理由はない、以来死んだと思って生きているという。システムに取り込まれた人々は皆決まり文句を口にしているだけ。傲慢な極右勢力が大手を振って表通りを闊歩し、人間味のある意見を主張する者らは反逆者にされ蚊帳の外に弾き出される。懲役35年がどうして7年で出所できるのかなんて誰にも口にできない。水面下の力関係と取引ですべては決まっている。

911以降アメリカ政府の機密情報の量は急速に増加した。文書は年間9200万にも達し、これらのファイルにアクセスが認められた従業員数は400万人以上に上った。
そこには調査されない多数の捕虜の拷問や未報告の1万5千人以上の民間人の死などが示されていた。

ツイッターに自殺を仄めかすような投稿をした後、ウェルネスチェックと称し1人はスタンガン3人は銃を構え令状のない警官がマスターキーで留守のアパートに侵入する姿が彼女の設置した防犯カメラに映し出される。警察の強権ぶりが窺える。

マニングの母親
「この国では一度敵と見なされれば常に敵とされ、一生不安に苛まれながら生きていかなければならない、彼らは何かしら別の理由を見つけ出すだろうから」

チェルシー・マニング
「みんなに真実を知らしめたい 何か変えられるかもしれないから」
「誰かが助けてくれるのを待ったりはしない システムが自己修正することを期待してはいけない 追い詰められ戦う以外に道はない 自分がこうならなければ無視していたかもしれないが 自分の手で力を取り戻さなければいけない 彼らは決して止まらない 私たちが止めるまでは」

※ヒトの性染色体は女性がXX、男性はXYです


監督:Tim Travers Hawkins

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