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#ネタバレ 映画「午後8時の訪問者」

「午後8時の訪問者」
2016年作品
ジェニーは戦場へ行った
2017/4/22 22:30 by さくらんぼ (修正あり)

( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)


この映画は、自ら封印したインナーチャイルドを探し、弔い、周囲にもその哀しみを解ってもらいたいと願うヒロインの、心の旅路を描いていたのかも

ヒロイン・医師ジェニーの助手をしていた研修医ジュリアンは、口から泡を吹いて倒れる少年を見て、ショックのあまり自分もフリーズしてしまいました。そして研修医をやめるのです。

後にジェニーがジュリアンに聞いたところでは、少年の症状はDVによるショックであり、ジュリアン自身の幼いころの姿と同じなのだそうです(インナーチャイルド)。

しかし幼いジュリアンの苦悩を当時の医師は理解してくれなかった。だからジュリアンは自分がDV患者を理解できる医師になろうと思ったのです。けれど、こんどはDV患者の気持ちが分かりすぎてフリーズしてしまう。

この様なサイドストーリーがあるのを思いだしてから、あらためてジェニーと少女を眺めると、午後8時の訪問者である少女もジェニーのインナーチャイルドだと思われるのです。この並列的な説明手法はときどき見かけます。定石かもしれませんね。

ジェニーは医師になり、老若男女の患者や医師仲間と戦うために女を封印したのです。

この映画は、自ら封印した少女を探し、弔い、周囲にもその哀しみを解ってもらいたいと願う一人の人間医師の、心の旅路を描いていたのかもしれません。

★★★★

追記  
2017/4/23 14:05 by さくらんぼ

「娼婦と医師・ジェニー」の共通点は「女を封印」して仕事をしていること

> ジェニーは医師になり、老若男女の患者や医師仲間と戦うために女を封印したのです。

ジェニーの病院を訪れた少女は街の娼婦でした。「娼婦と医師・ジェニー」に共通点はあるのか。一見すると娼婦は女を売って商売している様にも見えますが、実は逆で、娼婦も「女を封印」して仕事をしているとも言えるのです。好きでもない男でも相手にするから。

追記Ⅱ ( 謎解きはセリフで ) 
2017/4/23 14:12 by さくらんぼ

一般に邦画のミステリーでは、ラストに再現映像みたいな謎解きがあります。「百聞は一見に如かず」で良くわかりますし、見ごたえもあります。しかし、この映画のラストにそれはありません。たんたんとセリフで語られるだけでした(私が寝ていたのでなければ)。そこが不満といえば、少々不満。地味な映画です。

追記Ⅲ ( ハードボイルド ) 
2017/4/23 17:55 by さくらんぼ

クールに行動したジェニーを見ていると、これはハードボイルドだったのかもしれない

事件の真相は、「ある男がクルマを運転中、街の娼婦を見つけ買おうとしますが、突然の事に身の危険を感じたらしい娼婦は逃げます。その時、くぼ地に転落し頭を打って亡くなるのです。悪いことに、それを男の息子(ある意味インナーチャイルド)が目撃し、男もそれを知るのです。これは単なる事件以上に二人に衝撃的なこと。黙っていても内面がジワジワむしばまれます。

耐えきれなくなった男はジェニーの元を訪れますが、自分の息子だけでなくジェニーも苦しんでいることを知ると、罪深さに耐えきれず自殺未遂を起こすのです。

苦しみが極まると、研修医ジュリアンみたいに患者の前でフリーズして医師になるのをやめてしまうか、この男のように自殺を図ったりするのですね。

そんな中、クールに行動したジェニーを見ていると、これはハードボイルドだったのかもしれないとも思うのです。

追記Ⅳ ( 対照的な世界 ) 
2017/4/23 18:26 by さくらんぼ

だから女を封印した医師としての行動とは対照的な世界。ちなみに娼婦が男から逃げたのも、女を封印した娼婦としての行動とは対照的な世界

ジェニーが探偵よろしく「少女を知っている人」を探し始めます。すると訪問先には、パンやお菓子、コーヒーなどをくれる人が意外に多いのですね。そのつど遠慮なく頂くジェニー。

このシーンが繰り返し出てくるところを見ると、なんらかの記号だと思われ、それは「女として行動している記号」なのかもしれないと思いました。感情のおもむくまま動くのは女性の特質のような気がしますし、間食が好きなのもそうですね。

だから女を封印した医師としての行動とは対照的な世界なのでしょう。

ちなみに娼婦が男から逃げたのも、女を封印した娼婦としての行動とは対照的な世界でしたね。

追記Ⅴ ( グレーゾーンの妙 ) 
2017/4/24 9:06 by さくらんぼ

「もしもピアノが弾けたなら」という名曲があるが、この映画の教訓は「ドアは半開きが良い」だったのかも

この映画は三層構造のようです。

表層→観ての通り、時間外の訪問者を無視した話。

中層→少女を難民に見立てた話。少女を黒人に設定したことが難民の記号かもしれません。エンドロールには「道路を走り抜けていく、沢山の自動車の走行音」だけが流れます。あれは「移動」の記号か。

深層→インナーチャイルドの話。

私も好きな「もしもピアノが弾けたなら」という名曲がありましたが、この映画の教訓は「ドアは半開きが良い」だったのかもしれません。

閉め切りでも、開けっ放しでも問題があると。チラシの写真にある「ジェニーがドアを半開きにし、少し哀し気に眺めている」表情の意味はそれだったのかもしれません。

追記Ⅶ ( コロナ過に ) 
2021/8/19 10:14 by さくらんぼ

誰でも、すがってくる人に背を向ける事があると思うが、ほとんどの場合、理由があって責められないこと

ときどき映画「午後8時の訪問者」を思い出していました。

ただし、タイトルが思い出せないので検索できなかったのです。映画「未知との遭遇」みたいなメジャーな作品でないと、タイトルまでは覚えていませんから。

しかし、先日ひまつぶしに私のレビュー全件検索をしていて、偶然見つけました。

それで思いを書こうとしましたが、気の利いたことは書けませんでした。それでもこの作品は、心に疼いているのです。

誰でも、忙しさから、お金の問題から、規則から等、いろいろな理由で、すがってくる人に背を向ける事があると思います。しかも、ほとんどが正当な理由があって責められないこと。

医者でなくてもそうなのですから、コロナ過のご時世、医療従事者の方なら … 。

追記Ⅷ ( TVドラマ「HERO」 ) 
2021/8/19 10:21 by さくらんぼ

キムタクさんの人気TVドラマ「HERO」。同僚たちの心情は複雑か

キムタクさんの人気TVドラマ「HERO」が、何回目かの再放送されています。

私も3回目ぐらいですが、好きなのでまた観ています。

主人公は他の仕事を放り出して、気になる一件のためにあちこち実地調査をするのです。それも日常的に。

すると主人公の仕事はどんどん溜まっていきます。むりやり事務官に頼まれて、それを同僚たちが手伝うのです。しかたなく。

主人公がいる限り、同僚たちの事務量は増え、残業も増え、デートなど、私生活にも影響がありました。

同僚たちは内心「迷惑な奴」だと思っているはずです。早く異動して行って欲しいと。

そしてもう一つ、自分たちが日常的に流している(処理している)事件についても、有罪・無罪が間違っているかもしれないという、(決して口には出せない)密かな恐れや自己嫌悪が、じわじわと自分たちをむしばんでいくはずです。

そんな彼らにも、この映画「午後8時の訪問者」は刺さるかもしれません。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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