#ネタバレ 映画「かぞくいろ―RAILWAYS わたしたちの出発―」
「かぞくいろ―RAILWAYS わたしたちの出発―」
2018年作品
平成最後の師走に
2018/12/5 21:50 by さくらんぼ(修正あり)
( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)
他にも素晴らしい映画はあるかもしれませんが、もし、この作品で平成最後の師走を終えてしまったとしても、私に後悔はありません。
珍しく眠気もなく、我を忘れて映画に引き込まれたこの作品。エンドロールが終わると、見知らぬ奥さまグループの御一行から、「よかったね~」と、ため息と称賛の混じった声が聞こえてきました。そんな感嘆符が聞こえることはめったにありません。私の気持ちを代弁してくれたような気分になりました。
観客にあまりこびない、純文学の文体を持った作品です。自然体の演技も素晴らしい。
あえて難を言うと、時間が前後する所で、過去がモノクロにならないため、少し混乱するところがありますが、それぐらいでしょうか。
これは万人にオススメできる掘り出し物です。
★★★★☆
追記 ( 「沈着冷静」はカッコ良い )
2018/12/6 10:38 by さくらんぼ
「 1980年、既に人類は地球防衛組織シャドーを結成していた。シャドーの本部は、イギリスのとある映画会社の地下深く秘密裏に作られ、沈着冷静なストレイカー最高司令官のもと、日夜、謎の円盤UFOに敢然と挑戦していた。」
( TVドラマ「謎の円盤UFO」 矢島正明のオープニング・ナレーションより抜粋 )
上記は「1970年大阪万博」の頃にあった、人気SF・TVドラマのナレーションです。ドラマでは、一般の人には宇宙人の存在は秘密にされていたため、ストレイカーは家族にも言えないのです。
だから、24時間体制で、いつも妻をほったらかして仕事に飛びだしていく彼は、「私と仕事とどっちが大切なの?」とばかりに妻を怒らせたり、悲しませたりしていました。
ストレイカーでなくとも、リーダーなら沈着冷静が必要です。キレてはいけません。
もちろんリーダーでなくとも、キレてはいけません。沈着冷静であればもっと良いのです。
そして、この映画「かぞくいろ―RAILWAYS わたしたちの出発― 」の主題も、そこにあるのかもしれません。運転手も、一家の主も、子の親も、学校の先生も、(そして乗客も、家族も、子も)キレてはいけません。
追記Ⅱ ( 映画「クレイマー、クレイマー」 )
2018/12/6 11:32 by さくらんぼ
>あえて難を言うと、時間が前後する所で、過去がモノクロにならないため、少し混乱するところがありますが、それぐらいでしょうか。(本文より)
忘れていましたが、もう一つありました。
子どもが生まれると同時に、母は病死したようです。突然、父子家庭になったわけですが、父は子を溺愛していました。でも祖父母が、「自分たちが育てる。お前にはお任しておけない!」と、力づくで子を、それも葬儀場で略奪しようとするのです。必死で取り返す父。
そもそも、子の親権は父にあるはずですから、父を無視して子を取り上げようとするのは親族でも許されることではないはずですし、葬儀場で略奪するというのも異常です。そこまでに至った背景がよく描かれていないので、これも「?」ですね。
しかし、もしかしたら、こんな理由で、このエピソードが作られたのかもしれません。
「キレる」と言えば、「あおり運転」や「モンスタークレーマー」を連想しますね。映画「クレイマー、クレイマー」のエピソードには、離婚した夫婦が子どもの奪い合いをするところがあります。
ちなみに映画「クレイマー、クレイマー」の「クレイマー」とは、名前の「クレイマー」と、社会にトラブルを起こす「クレイマー」とに、韻を踏んでいるのかもしれません。
もし、映画「かぞくいろ―RAILWAYS わたしたちの出発― 」が、映画「クレイマー、クレイマー」へのオマージュだとしたら(まだ断定したわけではありません)、その代表的記号として、唐突でも「この奪い合い」を入れたかったのかもしれません。
そして、映画「かぞくいろ―RAILWAYS わたしたちの出発― 」では、後妻としてヒロイン・晶(有村架純)が来たのですが、今度は夫が急に病死してしまうのです。
家賃が払えず、アパートも追いだされてしまった晶と子。しかし、晶は子どもを育てるために、偶然募集のあった電車の運転手を目指すのです。このあたりも、失業のために子どもを取り上げられようとしていた、映画「クレイマー、クレイマー」の父を連想させますね。名前も「晶」であり、男性でも通用するものであるのも微妙です。
追記Ⅲ ( 「エンドロール」のリズムは必聴 )
2018/12/6 11:39 by さくらんぼ
エンドロールに流れる曲のリズムが「ガッタン、ゴットン」調なのです。
ご承知のとおり「電車の音」ですね。
あの音は、とてもノリが良くて、日本のリズムである「エンヤ、トット」にも通じるところがあるし、もう一度聴きたいぐらい。
ぜひ楽しんできてください。
追記Ⅳ ( 鉄道事故 )
2018/12/7 9:20 by さくらんぼ
学校での土下座のエピソードがありましたが、この映画では「モンスタークレーマー」を、通常の意味だけでつかっているのではありません。
ヒロインが見習いとして電車を運転していた時、線路上にいた鹿を轢いてしまいました。多くの人を乗せて時刻表どうりに走る電車は、映画の記号では「モラル」とされています。
それを妨害し、停車までさせたのですから、鹿も「モンスタークレーマー」なのでしょう。さらに、死骸を片付けようとしたとき、近くにいた小鹿にじっと見つめられましたが、ヒロインの哀しみをダメ押しした小鹿も「モンスタークレーマー」なのかもしれません。そのせいで、ヒロインは発狂したように泣きわめき、以後の運転ができなくなったようですから。
ヒロインには父を亡くした息子がおり、親を亡くした子どもの気持ちが分かりすぎていただけに、小鹿の件は堪えたのでしょう。
しかし、沢山の乗客を預かる電車の運転手としては、放置自転車でも片付けるがごとく、沈着冷静に行動し、運行を再開しなければならないのです。
追記Ⅴ ( 戻って来た小鹿 )
2018/12/7 17:26 by さくらんぼ
>ヒロインには父を亡くした息子がおり、親を亡くした子どもの気持ちが分かりすぎていただけに、小鹿の件は堪えたのでしょう。(追記Ⅳより)
鹿の事故があった直後、いろいろあって、ヒロインの息子が(正確には「夫の連れ子」で、ヒロインと養子縁組をしていたかまでは、描かれていなかったと思います。リアルでは養子縁組する場合が多いですが)、いつまでたっても父の死を受け入れられないでいることが発覚し、気持ちのゆとりを無くしていたヒロインが、目を覚まさせようと、強く叱責しました。「お父さんは、もういないの。死んだのよ!」と。
すると、息子は「晶(ヒロインのこと)が死ねばよかったのに…」と言い放ったのです。
映画を観ていた私は大ショックでした。「それをいっちゃあ、おしまいよ」の世界です。晶も当然大きなショックを受けたでしょう。たぶんその時、「あの小鹿の悲鳴が、息子の口を通して、今、吐きだされた」ような気がしたのだと思います。だから返す言葉もなかった。
その上、鉄道会社からも、「しばらく休んで、自分の適性を考えてみろ」と、半ば、退職への引導を渡されていたので、ヒロインはそのまま行方不明になったのです。
追記Ⅵ ( 小鹿の親になる決意 )
2018/12/7 17:53 by さくらんぼ
>すると、息子は「晶(ヒロインのこと)が死ねばよかったのに…」と言い放ったのです。(追記Ⅴより)
さすがに「ひどい事を言ってしまった」と悟った息子は、泣きながら祖父に助けを求めます。… 祖父は晶を捜しに … そして、運よく再会できた祖父は、晶に言いました。
「もし、このまま戻らなくても、息子は祖父の私が育てるから心配しなくて良い。これからの進路は、自分で考えなさい」と。
その後、しばらくして、晶は息子と電話で話しました。息子は、泣きながら、「ごめんなさい…」と。
たぶんその時、この息子を育てることが、「あの小鹿への罪滅ぼし」だとも思ったのでしょう。そうする事が、一番自分の気持ちを安定させるとも。
ヒロインはすぐ息子の元へ帰り、鉄道会社にも頭を下げて、運転手として再起の決意をしたのです。
余談ですが、私は早期退職をしました。それは若い頃からの夢でした。しかし、退職願を提出したら、よくある話かもしれませんが上司・先輩から慰留されたのです。長年考え抜いた上の退職願でしたから、身に余る光栄と感謝しつつも、同時に、そんなにいい加減な気持ちで出したのではないとの気持ちも起こって、私は固辞しました。しかし、あの時もし退職を思いとどまっていたら…と思うこともあります。リタイアして楽になったと思う反面、あそこで働くのも、そんなに悪くはなかったかもと、退職して初めて感じることもありましたから。
追記Ⅶ ( でも、母とは呼びたくない… )
2018/12/7 18:09 by さくらんぼ
めでたく息子と和解したヒロインですが、その時、また息子が余分な一言を言ったのです。
「お母さんじゃなくて、晶のままが良い」と。
「いいよ!」と笑顔を見せるヒロイン。
これは、どういう意味でしょうか。
たぶん息子は、「両親が死んでしまったトラウマで、もう親を持ちたくなかった」のでしょう。また逝ってしまいそうで。それは晶への愛情の裏返しでもあります。
そして、年齢が15歳しか離れていなかったし、継母でもあるから、「お母さん」よりも「晶という、歳の離れた姉」の方が、しっくりきたのかもしれませんね。
追記Ⅸ ( 彼女たちの、「生き抜いてやる」 )
2019/7/13 9:10 by さくらんぼ
>そして、映画「かぞくいろ―RAILWAYS わたしたちの出発― 」では、後妻としてヒロイン・晶(有村架純)が来たのですが、今度は夫が急に病死してしまうのです。
>家賃が払えず、アパートも追いだされてしまった晶と子。しかし、晶は子どもを育てるために、偶然募集のあった電車の運転手を目指すのです。このあたりも、失業のために子どもを取り上げられようとしていた、映画「クレイマー、クレイマー」の父を連想させますね。名前も「晶」であり、男性でも通用するものであるのも微妙です。(追記Ⅱより)
>その上、鉄道会社からも、「しばらく休んで、自分の適性を考えてみろ」と、半ば、退職への引導を渡されていたので、ヒロインはそのまま行方不明になったのです。(追記Ⅴより)
( 以下、 映画「居眠り磐音」のネタバレにもふれています。)
寡婦になってしまったヒロイン・晶(有村架純さん)は、子どもを大学まで出すために、しっかりとした収入のある仕事に就こうと思い、ほんとうは適正に疑問符がついたのに、電車の運転手を目指しました。
当然に、自分の事は二の次、三の次です。もっと楽しそうな仕事とか、楽な仕事とか、趣味を楽しむとか、そんなことは考える余裕はありませんでした。
また、映画「居眠り磐音」のヒロイン・奈緒(芳根京子さん)も、武士の娘であるにもかかわらず、ある出来事から、ホームレスに近い生活を強いられ、母と二人生きていくために、吉原へ身売りするのです。
この力強い生きざまを観ると、私など恥ずかしい、贅沢は言えないな、と思えてしまうお話でした。
追記Ⅹ ( 令和2年の師走に、新型コロナのドラマを )
2020/12/3 8:25 by さくらんぼ
( TVドラマ「姉ちゃんの恋人」のネタバレです。 )
これは新型コロナ後の、マスクも不要になり、ふたたび安らぎが戻った世界を描いています。
傷を癒すように、悪人が一人も登場しない桃源郷のような世界観です。
ヒロイン・桃子(有村架純さん)は仕事で知り合った真人(林遣都さん)を好きになるのですが、 真人には前科があったので、桃子の告白を断りました。
しかし、追いかける桃子。
やがて真人は真相を語ります。
何年か前の真人には、別の恋人がいて、その恋人と夜道を歩いていました。
すると、すれ違った2~3人の男たちに因縁をつけられ、脇道に引き込まれて、恋人が暴行されそうになったのです。
そこで黙ってみているわけにはいきません。
真人は落ちていた角材を振り回して男たちを叩きのめしました。
喧嘩などしたこともなかったし、無我夢中でした。
警察で事情聴取を受けた真人は、正直に話しましたが、驚くことに、恋人は「自分は暴行されそうになど、なっていない」と証言したのです。
真人は「暴行されたという噂がつくと女の将来にかかわる」と、恋人が周囲から嘘をつくように言われたらしいと聞き、(お人よしにも)恋人の為ならと、その嘘に乗ってあげることにしたのです。そのせいで真人は、酔っぱらって、誤解で殴ったことにされてしまいました。
しかし、それは真人と家族、親戚縁者の為にもならない。だから、以後ずっと苦しみ続けていました。
この話は、「暴行」「前科」を「新型コロナ感染」に置き換えると理解できます。
時代背景として「新型コロナによる差別や偏見」を描いていたようです。
( 2020/12/2 22:30 by さくらんぼの加筆再掲 )
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)