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推奨される睡眠時間 National Sleep Foundation's updated sleep duration recommendations: final report


1. 研究の背景と目的

この研究は、睡眠時間に関する科学的で最新のガイドラインを提供することを目指しています。私たちの生活において、睡眠は健康や幸福感に大きな影響を与える重要な要素です。しかし、これまでの睡眠時間の推奨値には科学的な裏付けが十分ではなく、時代の進化や新しい研究成果を反映していない部分がありました。そこで、National Sleep Foundation (NSF) は、現代の科学的根拠に基づいて、年齢ごとの適切な睡眠時間を再評価し、更新する必要があると考えました。

この研究の目的は、単に「どのくらい眠るべきか」を示すだけでなく、健康な個人にとって最適な睡眠時間を明らかにし、それを基にしたガイドラインを作成することです。これにより、一般の人々が自分の睡眠習慣を見直し、健康的な生活を送るための手助けをすることが期待されています。特に、インターネットを通じて多くの人々が睡眠に関する情報を求めている現状を考えると、信頼性の高い情報の提供は非常に重要です。


2. 方法論


専門家パネルの構成

この研究では、18人の多分野にわたる専門家からなるパネルが編成されました。このパネルには、睡眠の専門家だけでなく、小児科医、精神科医、生理学者など、さまざまな分野の専門家が含まれています。このような多様な視点を取り入れることで、睡眠時間が健康や福祉に与える影響を包括的に評価することが可能になりました。

具体的には、6名の睡眠専門家がNSFによって選ばれ、残りの12名はアメリカ小児科学会やアメリカ胸部医師会などの関連団体から推薦されました。これにより、異なる専門分野の知見が統合され、より信頼性の高い結果が得られると考えられています。また、これらの専門家たちは、それぞれの分野における豊富な経験を持ち、睡眠に関する幅広い視点から意見を述べることができました。

文献レビュー

文献レビューは、ジョン・ハーマン博士(テキサス大学サウスウェスタン医学センター)が率いる独立チームによって行われました。彼らは、2004年から2014年にかけて発表された科学論文の中から、正常な非疾患集団を対象とした研究を厳選しました。調査対象となったのは、ピアレビュー済みのジャーナルに掲載された英語の論文のみです。

検索プロセスは非常に詳細に行われました。まず、58種類の検索クエリを使用して2412件の論文が特定され、その中からさらに312件の論文が最終的に採用されました。これらの論文は、睡眠時間に関するデータ、睡眠不足や過剰な睡眠の影響、そして健康への結果について分析されています。例えば、睡眠時間が短すぎたり長すぎたりすると、集中力の低下や心血管疾患のリスクが増加することが示されています。


RAND/UCLA適切性法の適用

この研究では、科学的証拠と専門家の意見を統合するために、RAND/UCLA適切性法という手法が使用されました。この方法は、エビデンスに基づく医学の枠組みを超えて、専門家の意見を系統的に取り入れるためのもので、特に科学的証拠が限られている領域での意思決定に役立ちます。

専門家パネルは、0時間から24時間までのすべての睡眠時間について、「適切性」を9段階で評価しました。1は「非常に不適切」、9は「非常に適切」を意味します。評価基準としては、健康への利益とリスクを比較し、それぞれの睡眠時間がどれだけ適切であるかを判断しました。

投票は2回行われました。最初の投票は個別に行い、その後、全員が集まって議論を行いながら2回目の投票を行いました。このプロセスを通じて、専門家たちの意見が一致する部分と異なる部分が明確になり、最終的な結論が導き出されました。特に、最初の投票では意見が分かれた部分についても、議論を通じて理解が深まり、より妥当な結論に到達することができました。

RAND/UCLA適切性法(RAND/UCLA Appropriateness Method)とは、科学的証拠が限られている場合やエビデンスに基づく医学的手法だけでは十分な結論に達するのが難しい場合に、専門家の意見を系統的に統合して意思決定を行うための手法です。

3. 結果

専門家パネルは、年齢ごとに適切な睡眠時間を決定しました。例えば、新生児(0~3ヶ月)の場合、推奨される睡眠時間は14~17時間です。一方、高齢者(65歳以上)では7~8時間が推奨されています。これらの範囲は、健康と福祉のために理想的な睡眠時間を示していますが、一部の人々にとってはそれ以外の時間でも問題ない場合があります。

ただし、極端に短いまたは長い睡眠時間は、健康上の問題を引き起こす可能性があります。例えば、成人が毎日5時間しか眠らない場合、慢性的な睡眠不足が原因で集中力の低下や心血管疾患のリスクが増加する可能性があります。逆に、10時間以上眠る場合も同様に健康への悪影響が報告されています。

また、この研究では「適切」「可能性のある範囲」「不適切」という3つのカテゴリに分けて評価が行われました。「適切」は、ほとんどの人にとって理想的な睡眠時間であり、「可能性のある範囲」は一部の人々には適しているかもしれないが全員に当てはまるわけではない範囲です。「不適切」は、健康に悪影響を与える可能性が高い範囲として分類されています。このように、睡眠時間の評価は単純な数値だけで判断されるのではなく、個々の特性や状況を考慮して行われることが重要です。

4. 考察

この研究の結果からいくつか重要なポイントが浮かび上がります。まず、睡眠時間は年齢によって大きく異なることがわかりました。新生児は1日の大半を眠って過ごしますが、成長するにつれて必要な睡眠時間は徐々に減少します。これは、身体の発達や脳の機能が年齢とともに変化するためだと考えられます。

次に、睡眠時間だけでなく「睡眠の質」も重要であることが強調されています。たとえ推奨される時間だけ眠っていても、眠りが浅かったり中断されたりすると、健康への効果は十分に得られません。そのため、今後の研究では、睡眠の質やタイミングについてもさらに深く探求する必要があります。

さらに、この研究では「時間在床時間(ベッドの中で過ごす時間)」と「実際の睡眠時間」を区別する必要があることも指摘されています。多くの研究では、これらが混同されている場合があり、それがデータの解釈に影響を与える可能性があります。例えば、ベッドの中で過ごす時間は実際の睡眠時間よりも長くなる傾向があり、これが睡眠時間の過大評価につながることがあります。また、実験室で測定された睡眠時間は通常、自己申告による睡眠時間よりも短くなる傾向があります。この違いを理解することは、研究結果を正しく解釈するために重要です。

5. 結論

この研究の結論として、年齢に応じた適切な睡眠時間の推奨値が提示されました。これらのガイドラインは、健康な個人を対象としており、睡眠障害を持つ人々には当てはまらない場合があります。また、一部の人々は推奨範囲外の睡眠時間でも問題なく生活できるかもしれませんが、極端に短いまたは長い睡眠時間は健康問題の兆候である可能性があります。

最後に、この研究は睡眠時間に関する重要な一歩ですが、まだ解決すべき課題が残っています。特に、睡眠の質やタイミング、そして個々の生活スタイルが睡眠に与える影響についてさらなる研究が必要です。このガイドラインを活用することで、人々が自分自身の睡眠習慣を見直し、健康的な生活を送るための一助となることが期待されています。

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