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自己免疫性自律神経節障害


序論

自己免疫性自律神経節障害 (Autoimmune Autonomic Ganglionopathy: AAG) は、自己免疫の異常により広範な自律神経障害を引き起こす後天性の疾患です。AAGにおける中核的な免疫異常は、血清中に存在する抗自律神経節アセチルコリン受容体 (ganglionic acetylcholine receptor: gAChR) 抗体です 。この抗gAChR抗体は1998年にMayo Clinicのグループにより発見され 、特発性自律神経障害患者の約半数で検出されることが報告されています 。

AAGは、立ちくらみ、起立性低血圧、消化器症状、排尿障害など、自律神経系の広範な障害に起因する様々な症状を示します。一方で、一部の症例では限定的な自律神経障害しか引き起こさない「limited form of AAG」の病型も存在します 。このように、AAGの症状は多様で、個人差が大きいのが特徴です。


自律神経症状

AAGでは広範な自律神経障害を呈し、約70%の症例で消化器系の運動障害が見られます。主な症状は便秘ですが、一部に下痢や嘔吐を認めることもあります。また、約90%の患者で起立不耐を呈し、約80%で起立性低血圧による立ちくらみや失神発作が生じます。発汗異常も高頻度に認められ、無汗症や多汗症などの症状が約60%の症例で見られます。

さらに、AAGでは自律神経系のみならず中枢神経系への影響も約80%の症例で認められます。代表的な中枢神経症状としては、抑うつ傾向、性格変化(情緒不安定、行動の幼児化など)、認知機能障害などが報告されています。これらの症状は診療の支障となる場合もあり、AAGに由来するものか既存の性格傾向なのか判然としない例も少なくありません。重症例では自己導尿やカテーテル留置を要するなど、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。このように、AAGでは広範な自律神経障害に加え、中枢神経系の症状も高頻度で認められるのが特徴的です。

感覚障害と内分泌異常

自己免疫性自律神経節障害(AAG)では、自覚的な四肢末端のしびれや痺れ、知覚過敏や痛覚異常などの感覚障害が認められることがあります。また、低ナトリウム血症や抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)、無月経、性機能障害などの内分泌障害が合併する可能性があります。視床下部や下垂体などの脳室周囲器官への自己抗体の関与が内分泌異常の一因と考えられています。AAGの症状は極めて多様で、一部の患者では限局的な自律神経症状しか呈さないため診断が困難な一方、難治例も存在します。つまり、AAGの症状の幅は軽微なものから重症までさまざまで、患者ごとに異なります。

診断と検査

AAGの診断には、抗gAChR抗体の検出が重要です。ELISAのほか、ラジオイムノアッセイや細胞ベースのアッセイなどの方法が用いられ、自律神経節のアセチルコリン受容体に対する自己抗体を測定します。現在、抗gAChR抗体の測定は保険適用外ですが、需要は高く重要な検査です。

AAGには確立された診断基準はありませんが、一般に広範な自律神経症状(瞳孔異常、起立性低血圧、消化器症状、排尿障害など)に基づいて診断されます。しかし、症状は多様で非典型的なケースも少なくありません。そのため、POTS(起立性調節障害)やAIGA(後天性特発性全身性無汗症)などの自己免疫疾患との鑑別が重要になります。POTSでは約20%で抗gAChR抗体が陽性となりますが、発症年齢や他の自律神経障害の範囲、自己免疫疾患の合併率などが異なります。AIGAでは発汗障害が主症状なので、皮膚科を初診する場合があり、脳神経内科との連携が必要です。AAGの診断には、神経内科、リウマチ科、皮膚科などの各科の専門家間での緊密な協力が欠かせません。

治療法

AAGの治療には免疫抑制療法が中心となります。まず、ステロイドパルス療法、免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)、血漿交換療法などの強力な免疫抑制療法が第一選択肢(ファーストライン)として用いられます。その後、寛解維持のために経口ステロイドや免疫抑制剤の投与が続けられます。複合的な免疫療法の有効性が報告されていますが、最適な組み合わせや投与順序は確立されていません。

一方、難治例では免疫抑制療法のみでは症状のコントロールが困難な場合があり、そのような場合には対症療法が重要になります。コリンエステラーゼ阻害薬であるピリドスチグミンが、唾液分泌や腸管運動障害、起立性低血圧などに一定の効果があると報告されています。AAGの症状は多様なため、症状別に適切な対症療法を選択することが必要不可欠です。免疫治療に反応しない場合でも、対症療法を試みることが重要とされています。

併存疾患と関連疾患

AAGは自己免疫疾患を基盤とするため、他の自己免疫疾患との関連が指摘されている。特にシェーグレン症候群をはじめとする自己免疫性膠原病との合併が多く認められる。全身性エリテマトーデス(SLE)や関節リウマチなども同様に併存しやすい自己免疫疾患である。自己免疫の異常が腫瘍発症にも関与すると考えられており、AAGでは小細胞肺癌や卵巣腫瘍などの悪性腫瘍との合併例が報告されている。さらに、免疫異常に起因する他の神経疾患としては、重症筋無力症、多発性運動ニューロパチー、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)などが知られている。これらの疾患はいずれも自己抗体が関与する自己免疫性の神経疾患であり、AAGと同様の病態が背景にあると考えられる。このように、AAGは自己免疫の異常を基盤とする様々な疾患と関連しており、併存疾患の管理が重要となる。

結論

自己免疫性自律神経節障害(AAG)は、抗gAChR抗体が病原性自己抗体として作用する新しい慢性神経免疫疾患です。本疾患の主な特徴は、抗gAChR抗体による広範な自律神経障害に加え、中枢神経症状や感覚障害、内分泌障害などの多様な症状を呈することにあります。症状の多様性から、診断が難しい場合もあり、神経内科をはじめ、リウマチ科、皮膚科などの各診療科の連携が不可欠です。

一方で、AAGの病態解明と新たな治療法の開発が今後の課題となっています。現在は免疫抑制療法が中心的な治療ですが、最適な組み合わせは確立されていません。また、難治例に対する対症療法の重要性も指摘されています。さらに、抗gAChR抗体のHLA拘束性やIgGサブクラスの解析、新規自己抗体の探索、動物モデルの確立など、基礎研究の発展も期待されています。AAGは比較的新しい疾患概念ですが、自己免疫疾患の一つとして重要であり、今後の研究の進展が望まれます。




質問と回答

  1. 自己免疫性自律神経節障害(AAG)とは何ですか?

    • 自己免疫性自律神経節障害(AAG)は、自律神経系が免疫異常の標的となる比較的新しい後天性疾患です。この状態では、抗自律神経節アセチルコリン受容体抗体が病態に重要な役割を果たします.

  2. AAGの主な症状は何ですか?

    • AAGは広範な自律神経症状を特徴としており、さらに中枢神経系や感覚障害、内分泌障害といった自律神経系外の症候や、膠原病や腫瘍などの併存疾患を呈することがあります.

  3. AAGに関連する抗体は何ですか?

    • AAGに関連する主要な抗体は抗自律神経節アセチルコリン受容体抗体です。これらの抗体は、特に自律神経節に存在するアセチルコリン受容体に対して作用します.

  4. AAGはどのように診断されますか?

    • AAGは、血清中の抗自律神経節アセチルコリン受容体抗体の存在を測定することで診断されます。特に、ルシフェラーゼ免疫沈降システム(LIPS)を用いた測定法が確立されています.

  5. AAGの治療方法にはどのようなものがありますか?

    • AAGの治療には複合的な免疫治療が用いられます。多くの場合、免疫治療によって症状がコントロール可能ですが、難治性の症例も存在します.

  6. AAGの患者に見られることがある併存疾患は何ですか?

    • AAGの患者には、自己免疫疾患(例:シェーグレン症候群)や腫瘍(例:卵巣腫瘍、肺癌)が高い頻度で併存します。このような併存疾患は、AAGの病態に影響を与えることがあります.

  7. AAGの背景にある免疫異常はどのように理解されていますか?

    • AAGにおける免疫異常の中心は、血清中における抗自律神経節アセチルコリン受容体抗体の存在です。これらの抗体が自律神経系に影響を及ぼすことが確立されており、さまざまな症状を引き起こします.

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