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その痛み止め,いつまで続けるか?



序論

慢性疼痛とは、3ヵ月以上持続する長期的な痛みのことを指します。国際疼痛学会(IASP)は、慢性疼痛を「組織損傷が実際に起こった時、あるいは起こりそうな時に付随する不快な感覚および情動体験、あるいはそれに似た不快な感覚および情動体験」と定義しています。2009年の全国調査では、日本における慢性疼痛の有病率は22.1%にのぼり、高齢者では骨関節疾患や神経障害などにより、より多くの慢性疼痛に悩まされています。

慢性疼痛が適切に管理されないと、高齢者の日常生活の質が低下したり、身体的・精神的な健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、慢性疼痛の治療は高齢者にとって重要な課題となっています。単に鎮痛薬を処方するだけでなく、運動療法や認知行動療法など非薬物療法を組み合わせた多角的なアプローチが推奨されています。

本論では、まず慢性疼痛の定義と高齢者への影響を解説した上で、薬物療法の現状と課題、非薬物療法の重要性、集学的治療の必要性などについて詳しく説明します。最後に、高齢者の慢性疼痛治療に対する提言を行います。

薬物療法の現状と課題

慢性疼痛の治療においては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンなどの鎮痛薬が広く使用されています。NSAIDsは選択的COX-2阻害薬であっても、上部消化管や心血管系の副作用リスクが高くなるため、長期投与は避ける必要があります。一方、アセトアミノフェンは重篤な副作用は稀ですが、慢性腰痛に対する有用性は乏しいとされています。

慢性疼痛治療において推奨度の高い薬剤として、Ca2+チャネルα2δリガンド(プレガバリン、ガバペンチンなど)やデュロキセチンが挙げられます。これらは帯状疱疹後神経痛糖尿病性神経障害などに有効性が示されていますが、高齢者では副作用にも注意が必要です。

高齢者の慢性疼痛治療では、肝機能の低下によりアセトアミノフェンの高用量投与で肝障害リスクが高まることに留意すべきです。また、薬物代謝の変化により副作用が生じやすくなるため、慎重な投与が求められます。高齢者に対しては、薬物療法だけでなく運動療法や認知行動療法などの非薬物療法を組み合わせることが推奨されています。

非薬物療法の重要性

薬物療法に加えて、非薬物療法も慢性疼痛治療において重要な役割を果たします。特に運動療法と認知行動療法は、身体的・精神的な側面から痛みを緩和する効果が期待できます。

運動療法は、筋力や柔軟性、持久力などの身体機能を改善し、痛みの軽減と日常生活機能の向上をもたらします。米国内科学会のレビューでは、運動療法は慢性疼痛の痛みと身体機能の改善に有効であり、特に集学的生物心理社会的リハビリテーションプログラムが推奨されています。

一方、認知行動療法は痛みに対する考え方や行動パターンを改善することで、痛みの増悪を防ぎ、症状の改善が期待できます。患者が痛みについて理解を深め、適切に対処する能力を身につけることができます。理学療法士による認知行動療法と運動療法を組み合わせたプログラムは、変形性膝関節症患者の身体機能、精神機能、QOLなどを総合的に改善する効果があります。

このように、運動療法と認知行動療法は慢性疼痛治療において相乗的に働き、身体的・心理社会的な改善をもたらします。したがって、薬物療法に加えてこれらの非薬物療法を組み合わせることが推奨されています。

その他にも、鍼灸やヨガ、マッサージなどの補完代替医療が一部の患者で効果的である可能性が指摘されていますが、その科学的根拠は十分ではありません。運動療法と認知行動療法が中心的役割を果たすことが期待されます。

集学的治療アプローチ

慢性疼痛の治療では、薬物療法と非薬物療法を組み合わせた集学的アプローチが推奨されています。薬物療法のみでは副作用のリスクが高まる一方、運動療法や認知行動療法などの非薬物療法を併用することで、身体的・心理社会的な改善効果が期待できます。したがって、これらの療法を組み合わせることが重要です。

さらに、患者一人一人の症状や状況に合わせて、最適な薬剤の選択や非薬物療法のプログラムを設定する必要があります。個別化された治療計画を立てることで、より効果的な痛み緩和と日常生活機能の改善が期待できます。

また、慢性疼痛は複雑な問題であり、医師、看護師、薬剤師、理学療法士、心理士など多職種が協力して包括的にケアすることが推奨されています。身体的アプローチと心理社会的アプローチを組み合わせたチーム医療は、慢性疼痛の緩和に大きく寄与します。

このように、薬物療法と非薬物療法の併用、個別化された治療計画、そして多職種によるチーム医療が、高齢者の慢性疼痛治療において重要な役割を果たします。

結論

慢性疼痛は高齢者に多く見られる深刻な問題です。従来、NSAIDsやアセトアミノフェンなどの鎮痛薬が長期間にわたり処方されてきましたが、副作用のリスクが高く、必ずしも有効性は期待できません。一方、最近のエビデンスでは、運動療法や認知行動療法など非薬物療法を組み合わせた包括的な治療アプローチが有効であることが示されています。

高齢者の慢性疼痛治療においては、薬物療法に頼るだけでなく、身体機能や心理社会的側面にも着目した非薬物療法の活用が不可欠です。さらに、患者一人ひとりの状況に合わせた治療計画を立案し、医師、看護師、理学療法士、薬剤師など多職種が連携した集学的なチーム医療を行うことが重要となります。

一方で、慢性疼痛治療には未だ課題も残されています。高齢者は薬物の代謝が遅く、副作用のリスクが高いため、より安全で効果的な薬剤の開発が求められます。また、非薬物療法の最適な組み合わせ方や標準化された介入プログラムの確立も今後の課題でしょう。さらに、医療者の知識不足や社会的認知度の低さも問題点として指摘されており、慢性疼痛治療に関する教育啓発活動の強化も重要です。

以上のように、高齢者の慢性疼痛治療には包括的なアプローチが不可欠です。薬物療法と非薬物療法を組み合わせた集学的治療により、高齢者の生活の質向上が期待できます。今後、さらなる研究の進展と、医療・介護現場への適切な導入が求められます。





質問と回答

  1. 慢性疼痛の定義は何ですか?

    • 慢性疼痛は、3ヶ月以上持続する、または通常の治癒期間を超えて持続する痛みと定義されます。痛みは、様々な原因(例:神経損傷、炎症など)によって引き起こされます。

  2. 慢性疼痛治療の薬物療法にはどのようなものがありますか?

    • 治療に使用される薬剤には、NSAIDs、アセトアミノフェン、抗てんかん薬、抗うつ薬、オピオイド鎮痛薬などがあります。それぞれの薬剤には特定の適応症と副作用があり、注意が必要です。

  3. アセトアミノフェンの使用についてどのように見解が示されていますか?

    • アセトアミノフェンは、安全性が高いとされますが、慢性腰痛に対する有効性は十分なエビデンスがなく、その使用には注意が必要です。特に高用量投与時には肝機能障害のリスクが高まります。

  4. 慢性疼痛の治療ではどのようなアプローチが推奨されていますか?

    • 薬物療法だけでなく、運動療法や認知行動療法を組み合わせることが重要です。また、多職種の医療専門家が協力し、患者中心の全人的アプローチで治療を行うべきです。

  5. 慢性疼痛の診断においてどのような評価が重要ですか?

    • 効果的な治療に繋げるため、痛みの強さ、部位、性質、心理的状態(不安、抑うつなど)を含む多面的な評価が求められます。これにより、より適切な治療法を選択することが可能になります。

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