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慢性疼痛患者に対する鍼刺激が脳循環に及ぼす影響


序論

慢性疼痛とは、6か月以上続く持続的な痛みの状態を指します[3]。原因としては神経障害性疼痛や筋骨格系の疼痛など様々なものがあり、症状や原因によって分類されます。一般的な治療法には、鎮痛薬や抗うつ薬などの薬物療法、理学療法による運動療法や温熱療法、認知行動療法などの心理療法があげられます。鍼灸療法が注目される理由は、鍼刺激が単に局所の反応だけでなく、鎮痛系の賦活や体性-自律神経反射を介した臓器機能の調節など、全身性の反応を引き起こすことが報告されているためです。特に慢性片頭痛の予防に有効である可能性が示唆されており、日本の慢性疼痛診療ガイドラインでも慢性疼痛に対する鍼灸療法が推奨され始めています。本論文の目的は、脳イメージングなどの手法を用いて、慢性疼痛患者に対する鍼治療の有効性とその神経学的メカニズムを検証し、慢性疼痛治療における鍼治療の有用性を探ることです。構成としては、序論に続いて鍼治療の有効性、脳への影響、伝統医学としての意義、結論について論じられます。

鍼治療の有効性

日本の慢性疼痛診療ガイドライン2021では、鍼治療は慢性疼痛全般に対して「推奨度2(弱)」と位置づけられています。つまり、慢性疼痛治療において鍼治療を「弱く推奨する」という立場です。一方で、個別の疾患に関しては推奨度が異なり、慢性片頭痛や慢性緊張型頭痛に対しては鍼治療が「有用かもしれない」と記載されています。一方、三叉神経痛に対する鍼治療は「推奨なし」とされるなど、疾患によって適応を判断する必要があります。

実際、慢性片頭痛患者に対して4週間継続して鍼治療を行った研究では、初回では反応しなかった下行性疼痛調節系関連部位である前帯状皮質や前頭前野などが賦活することが確認されました。また、慢性腰痛患者に対しても、プラセボ鍼と比較して真の鍼治療では脳活動部位に有意な差異が認められ、体性感覚刺激に対する反応が顕著でした。さらに、真の鍼治療の方が痛み軽減効果も高いことが示されています。

このように、鍼治療は慢性疼痛患者の脳の疼痛関連領域に影響を及ぼし、痛みの調節メカニズムに作用する可能性があります。さらに、複数の研究結果から、鍼治療はプラセボよりも有意に痛みを和らげる効果があることが示されており、真の鍼治療の方がプラセボよりも優れていることが裏付けられています。

鍼治療が脳に与える影響

鍼治療は慢性疼痛患者の脳の疼痛関連部位に影響を与えることが明らかになっています。慢性片頭痛患者に対する4週間の鍼治療では、初回は反応しなかった下行性疼痛調節系関連部位である前帯状皮質や前頭前野が賦活することが確認されました。また、慢性腰痛患者に対しても、プラセボ鍼と比較して真の鍼治療では脳活動部位に有意な差異が認められ、体性感覚刺激に対する反応が顕著でした。このように、鍼治療は痛み調節メカニズムに関与する脳部位に作用する可能性があります。

鍼刺激は脳循環や神経伝達物質にも影響を及ぼすことが分かっています。ラットの研究から、顔面部や四肢からの鍼刺激が三叉神経や上脊髄反射を介して脳血流を上昇させることが報告されており、マイネルト核を介したコリン作動性の反応がその機序と考えられています。さらに、鍼刺激は神経線維の受容体であるポリモーダル受容器を興奮させ、CGRP・NOなどの血管拡張物質の放出を促進します。近年の研究では、鍼治療によりアデノシンが増加し鎮痛効果が得られることも明らかになっています。このように、鍼治療は脳血流の促進や神経伝達物質の調節を介して、慢性疼痛の緩和に寄与すると考えられます。

伝統医学としての意義

鍼灸療法は1,500年以上の長い歴史を持つ日本の伝統医学です。その起源は古代中国にあり、朝鮮半島を経由して飛鳥時代に日本に伝来しました。以来、日本独自の臨床経験と理論体系に基づいて発展を遂げ、現代に至るまで継承されてきました。現代医療においても、鍼治療は慢性疼痛の管理において重要な役割を果たしています。

日本の慢性疼痛診療ガイドライン2021では、鍼灸療法は「慢性疼痛に有用か」というクリニカル・クエスチョンにおいて、推奨度2(弱)と位置づけられています。つまり、慢性疼痛治療において鍼治療を「弱く推奨する」立場です。特に慢性片頭痛や慢性腰痛などの疾患に対しては、鍼治療が薬物療法と並んで有効な選択肢の一つとされています。

鍼治療の有効性については、近年の脳イメージング研究から神経学的なメカニズムが解明されつつあります。鍼刺激が痛み調節に関わる脳部位に作用し、神経伝達物質の変化を介して鎮痛効果をもたらすことが明らかになっています。慢性片頭痛患者では4週間の鍼治療により下行性疼痛抑制系が賦活し、慢性腰痛患者ではプラセボよりも真の鍼治療の方が有意に痛みを和らげることが報告されています。

一方で、鍼治療には一定のリスクも伴うため、適切な適応判断と施術が重要となります。今後は、さらなる研究によって鍼灸療法の科学的根拠を蓄積し、安全性と有効性を担保しながら、慢性疼痛管理における補完代替医療としての役割を果たしていくことが期待されています。

結論

本論文では、慢性疼痛に対する鍼治療の有効性とその神経学的メカニズムについて検証しました。鍼治療は慢性疼痛患者の脳の疼痛関連部位に作用し、痛みの調節メカニズムに関与することが示されました。具体的には、慢性片頭痛患者では4週間の鍼治療により下行性疼痛抑制系が賦活され、慢性腰痛患者では真の鍼治療がプラセボよりも有意に痛みを和らげることが確認されています。このように、鍼治療は脳の痛み関連領域に影響を及ぼし、神経伝達物質の変化を介して鎮痛効果をもたらすことが明らかとなりました。

鍼灸療法は日本の伝統医療として長い歴史を持ち、現代医療においても慢性疼痛治療の有力な選択肢として位置づけられています。日本の慢性疼痛診療ガイドライン2021でも、鍼治療は慢性疼痛に対して「推奨度2(弱)」と評価されており、特に慢性頭痛や腰痛への適用が期待されています。一方で、適切な施術と安全性の担保が重要であり、今後さらなる研究によって科学的根拠を蓄積し、安全で効果的な鍼治療法を確立していく必要があります。

鍼治療は痛み調節に関与する脳部位に作用することで、慢性疼痛の緩和に寄与する可能性が示されました。このような脳への作用から、鍼治療は単なる代替療法にとどまらず、新たな痛み治療の選択肢となり得ると期待されています。今後は、鍼治療の神経学的メカニズムをさらに解明し、最適な治療プロトコルを確立することで、慢性疼痛患者のQOL向上に資する新たなアプローチを提供できるでしょう。

質問1: 鍼灸治療の歴史はどのようなものですか?

  • 回答: 鍼灸治療は1,500年以上の歴史を有する日本の伝統医学です。古代中国から朝鮮半島を経て、仏教とともに日本に伝わり、独自の理論体系が構築されました。


質問2: 鍼治療は慢性疼痛に対してどのような効果がありますか?

  • 回答: 鍼治療は慢性疼痛に対する鎮痛作用があり、特に慢性片頭痛や慢性緊張型頭痛においてその効果が注目されています。鍼刺激によって脳血流が増加し、痛みの調節系に影響をもたらすことが示されています。


質問3: 鍼の適応や推奨度はどう評価されていますか?

  • 回答: 日本の慢性疼痛診療ガイドライン2021では、鍼灸治療は慢性疼痛に対して有用であるとされており、施行を弱く推奨していますが、個々の患者の状態や反応に基づいて適応を判断する必要があります。


質問4: 鍼刺激は脳イメージングにどのように影響を与えますか?

  • 回答: 鍼刺激は脳血流や脳機能に対する反応を引き起こし、特に疼痛調節系の血流増加が観察されています。例えば、慢性片頭痛患者では鍼治療後に脳部位の血流が改善されることが報告されています。


質問5: 鍼治療の副作用は何ですか?

  • 回答: 鍼治療には全身性と局所性の副作用があり、全身性では疲労感や眠気、一時的な悪化が見られることがあります。局所性では微量の出血や刺鍼時の痛みなどがありますが、これらは一般的に軽微です。


質問6: 鍼治療の研究の進展について教えてください。

  • 回答: 最近の研究では、鍼のマニュアル刺激がアデノシンの分泌を促進し、鎮痛作用があることが確認されています。また、鍼通電刺激による抗炎症効果も注目されています。


質問7: 鍼治療のガイドラインはどうなっていますか?

  • 回答: 鍼治療に関するガイドラインでは、鍼灸治療は慢性疼痛患者に対して推奨されていますが、その効果には個人差があるため、エビデンスに基づく実施が重要とされています。また、質の高い臨床研究を進めていくことが求められています。

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