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ロシアで記憶を失った父がキルギスで愛を取り戻す映画

『父は憶えている』(2022年/キルギス・日本・オランダ・フランス/カラー/ビスタ/1h45)監督・脚本・主演:アクタン・アリム・クバト 出演:ミルラン・アブディカリコフ、タアライカン・アバゾヴァ


23年ぶりに帰ってきた父は 記憶と言葉を失っていた
キルギスの村に、23年前にロシアに出稼ぎに行ったまま行方不明だった男が帰ってきた。彼は記憶も言葉もなくしている。連れ帰った息子は、彼に家族のアルバムを見せるのだが…。中央アジア・キルギスの名匠アクタン・アリム・クバトが描く、” 聖なる愚者”の物語。

キルギスという土地柄の映画なのか。ロシアに出稼ぎに行った父親が、行方不明になり、23年ぶりに記憶を失って戻ってきた。2000年頃のロシアって何があったのだろうか?エリツィンの後にプーチンが大統領になった頃でロシアに資本主義経済システムが導入された頃か?ロシアという貨幣経済都市とキルギスの家族主義的共同体の相克の映画だろうか?

記憶を失った父と接する息子の父に対する思いと村人の歓待の仕方が興味深い。イスラム社会圏だった。村の共同体意識というのか、父は村のゴミ拾いをせっせとやり、父の復帰のために食事が振る舞われる。その豪華さというかパンが並びお茶を振る舞う。村の父を知る男たちは酔っ払いばかりで昼から酒を飲んでいる連中なのだが、そこに喜劇性がある。

ロシアで何があったか一切語られないので父が記憶を無くすほどの事件がわからないのだが、キルギスでは最愛の母が再婚してしまった。その愛の行方みたいな話になっていく。母が再婚したのはキルギスのやり手の男でロシア的な感じがする。母と結婚したのも世間的なもので、母を愛していたわけではなく、そのことで息子は母を再婚させたことに後悔している。当時まだ大人になっていなかったので母の再婚に反対出来なかったのだろう。

母の愛の行方みたいな話になって、裕福な男と離婚して父と寄りを戻したいと願っている。母は家にやってきて歓待の食事会で歌を歌うのだがそれが若い頃の恋人の歌で、木に白いペンキを塗っている父の耳に届き記憶が蘇るというようなラストだった。キルギスのイスラム的愛の映画のように感じた。それはイスラム原理主義の世界ではなく、もっと緩やかな歓待する共同体世界であるような。

五歳ぐらいの娘と父は仲がいいのだ。その純真さなのかもしれない。子供は父の純真さを知っていた。

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