近未来SFになりつつある本だった
『ソヴィエト旅行記』アンドレ ジッド, 國分 俊宏 (翻訳) (光文社古典新訳文庫)
平等な社会に思いを馳せ、共産主義に傾倒していた20世紀前半の知識人たち。ジッドもまた壮大な実験場となったソ連を嬉々として訪れたものの、旅行客向けに案内される綺麗な施設の裏には……作家は透徹した目で、服従と順応を強いる体制、人々の貧しさ、官僚の欺瞞を看破していく。
ジッドが戦時中に、ナチスがソ連と敵対している時に、ソ連の批判文を書いたので(ナチスより独裁政治が進んでいるとも)、フランスの共産主義者から批判された。中にはロマン・ローランのような大作家やポール・ニザンのような若手批評家からも批判を受けた。
しかし、ジッドが書いたことは今では明らかにされていることだし、ソ連邦解体の情報公開で秘密警察や粛清の手口も知られている。そのKGB出身者がロシアのプーチンで、彼のロシアでの独裁政治は、今では連日のように報道されている。かつて安倍首相と平和条約を結ぼうとして、同じ道を歩んでいると言っていたのに。
ソ連邦が解体した後でもジッドのこの本が出版されて読まれているのは、何もこれは共産主義社会だけのことでもなく、日本の政治状況もこの状況に近づいているのではないか?それは独裁的支配である。
ロシアの状況が独裁体制の最たるものだが、かつてそのプーチンと友好を結んだのは日本の首相だったのである。恥晒しもなかったように、今ではウクライナ大統領との並んで写っている写真をSNSで上げていたが、一番の問題は過去の都合の悪いことはなかったことにして、都合の悪い資料は抹消しデーターを捏造してよく見せようとする。
何よりもそれに順応してしまうメディアや一般大衆である。この国では反抗することを禁じられているかのように世間が秩序を求めるのだ。同調圧力もある。最近では司法での国家よりの判決や国家ありきの論調。それは恐ろしい政治の前触れなのだ。その時になってしまったら容易に変えられない。選挙まで管理されていくのだ。
反抗勢力の逮捕。密告者の推進。親しい者から逮捕して密告をさせるという手口。自己批判という同調圧力。それらは独裁体制下で散々見られた歴史だが、その歴史を学ぼうとしない。自虐史観なんてことがあるのだろうか?この本で書かれている自国が外国から褒められて喜ぶ体質は、今でもTVやネットで見られることだ。「ジャパニズム」溢れた自国中心主義。外国からは学ぼうとはせず、自国の文化をおだてられて喜ぶ日本人。その弊害が国際感のなさ、ジェンダー問題や環境問題の遅れ、また外国人差別も増えている。すでに難民問題を抱えているのに見ようとはしない。
特に反権力の芸術家が弾圧されるようになったら恐怖政治が待っている。それは権力側よりも大衆側から順応しない者を制する。それが匿名のネットの荒らしや匿名の手紙など、コロナ禍での権力側の要請に従わない者への嫌がらせ。あるいはロシアのウクライナ侵攻への、国内のロシア人に対する嫌がらせなど、実際にこの国に現れていることだった。
さらに貧しい者への蔑視や自己責任論の横行。一番不正な金を受け取っているのは政治家なのに、そのことは一時的な問題にしかならない。そんな一党支配が続く利益許与社会になっているのは明らかなのだ。
そういう教育をうけつつあるのだが(経済至上主義)、さらに戦時中のような教育勅語を復活させようとする政治勢力もあるのだ。かつての日本の姿そのもの。共産主義か軍国主義かの違いだけで独裁体制という政治への警鐘である。