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シン・現代詩レッスン74

鮎川信夫「この涙は苦い」

『(続) 鮎川信夫詩集』 (現代詩文庫 )から「この涙は苦い」。この詩は本屋の思い出の詩か。本屋はどんどん潰れていく。それは仕方がないことなのだろう。かつては月に一万円ぐらいは本を買っていたけど(それもAmazonだった)、今では図書館専門だ。めったに本は買わない。買うとしたら古本屋でか?実際に部屋には積読状態の本が散らばっているのだ。それを読まねばと思うが、図書館で本を借りて読みたくなってしまう。その時々に読みたい本が変化するから。すぐに手元にないと興味も失せてしまう。

最近では詩の本はよく借りる。鮎川信夫は三冊目の詩集。詩集意外やアンソロジーもあるから随分読んでいる。鮎川信夫の詩の魅力は鑑賞よりも詩作したくなるのだった。それは吉本隆明「鮎川信夫の根拠」で書いていることだ。吉本は同世代ということもあるが、自分はその方法論かな。他人の詩や自分の過去の詩を平気で引用して、新しい詩を作る。それがけっこう気に言っている。パロディの手法なのだが、そこから自分の創作のヒロインが勝手に動き出してきて面白い。それは無意識的なものかもしれない。

さすがに今日の詩はどうかな。出番はないかもしれない。

この涙は苦い

あの
本屋は
もうない

ぼくは言おう
盗んだ本の味は
盗んだ梨より甘かったと……….

あれから
もう二十年たつ
あの本屋は洋裁店になった

鮎川信夫「この涙は苦い」

ノスタルジックになるが、「盗んだ本」というのがいい。それが「甘い」というのが。実際に本は万引きしたことはないのだが(他はあるみたいじゃないか?)、なんとなくその甘美な感覚はわかるような気がする。大江健三郎の小説で紀伊国屋で万引きする話があったような。いや、大島渚の映画か?
『新宿泥棒日記』だった。

いまさら
戦争を呪うべきか?

あの罪は甘かったが
この涙は苦い

大ヴィヨンには
あいすまぬことであった
「虐げられし
人々に」光りあれ!

鮎川信夫「この涙は苦い」

二十年ということは戦時なのか?多分古本屋かもしれない。禁書のたぐいの本で、本屋も知っていて見逃してくれたのかもしれない。そういう共犯関係が甘い感覚なのかも。「大ヴィヨン」ってなんだよ。バームクーヘンと出てくるが意味不明。「大ヴィジョン」のことだろう。映画のニュースだろうか?ベトナム戦争とか?

この涙は甘い

あの本屋は
潰れただろうか

ビニ本を映画雑誌に隠してレジへ
親父は大丈夫だったけど
女将が怖い顔して睨まれた

あれから四十年以上は過ぎている
立派な大人にはなれなかったけど
あの本屋で買った難しい本も懐かしい

そこで本を斬るかよ
修羅雪姉さんは………

やどかりの詩


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