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詩人で辿る中国史

『中国詩人伝 』陳舜臣(講談社文庫)

日本人にも親しまれている中国詩の巨星たち。最初の詩人・屈原から、中国革命の星・魯迅まで、明快に面白く描く詩人伝の決定版。熱気と自省、真情溢れる詩魂を語る――中国最初の詩人・屈原(くつげん)から、中国革命の星・魯迅(ろじん)まで、日本でも親しまれている中国詩の巨星たちの、詩と人生を語る名著。深い考察を、平明に面白く伝える著者の筆から、鮮やかに立ち現れる詩人たちの姿と心。激動の中国史に燦然と輝く詩魂が、現代の日本人の胸にひびく、詩人伝の決定版。李庚(りこう)が描く肖像画入り。

前半は屈原から魯迅までの中国を代表する詩人とその詩を網羅するのだが、中国詩史という感じ。

中国の詩人は権力者や政治家が多いのは詩人という職業があるわけではなく教養として生き方(哲学)があったのだろう。男性中心なので、日本のように女性歌人が排出することはなく、詩の内容も異性間の恋よりも同性間の友情の詩が多い。李白なんかは酒を酌み交わす相手ごとに詩を捧げていたようで、多くの友情的な別離の詩などが多い。その中で有名なのが杜甫との友情物語なのだが、友人が少なさそうな杜甫にはより印象に残ったようである。李白の中では大勢の中の一人の詩人に過ぎないのだが。李白は遣唐使であった阿倍仲麻呂にも帰国時に難破したと聞いて挽歌を詠んでいた(実際は生存していて日本を懐かしむ月の和歌などを詠んだのが残っている)。

後半の「私の好きな中国の詩」が項羽と劉邦の違いや隠者の詩人や水墨画の写生と観念的な象徴詩などを論じて面白い。

項羽の『垓下の歌』の歌は項羽が「四面楚歌」で敗戦の状況にある中で虞美人(虞美人草=女性の名から植物名が付いたのか)との別離を歌った詩は、天命や馬が動かないと言い訳がましいと言うのだが(それが劉邦との違いで劉邦は他人のせいにはしなかった)、ただ虞美人に呼びかける絶叫が中国でも劇化されて京劇「覇王別姫」の物語になっていた。映画『さらば愛/覇王別姫』を観たので、この詩は感銘深い。

垓下歌

力拔山兮氣蓋世
時不利兮騅不逝
騅不逝兮可柰何
虞兮虞兮柰若何
(私の)力は山を抜き、(私の)気は世を覆うほどである。
(だが)時勢が味方せず、(愛馬の)も(疲れて)進まない。
騅が進まないのに、どうしようか。
虞よ、虞よ、お前をどうしたらよいか!

また唐詩から山水画は墨を使った濃淡で自然を写生するような技法なのだが、李賀は内面の狂気を極彩色のように詠んだので、堀辰雄や芥川竜之介が愛唱した詩人だという。

杜甫は詩の定型(絶句とか律詩)に忠実で、その真面目さが詩にも出ているようだ。李白は過去の民謡などを取り入れて酒宴で歌う詩人だったという。そういう詩人の特徴も語られていて面白い。

また「中国近代詩華抄」は唐詩などの古典詩ではなく近代の詩(日本に学ぶ民権運動)の詩人も面白い。魯迅がそうだが、民権運動を学びながら日本支配の祖国に目覚めるというような。あと数は少ないが女性詩人もとりあげられていたり。秋瑾(しゅうきん)は刀を持った肖像写真が物語るように、かなりの豪傑女子でそうした詩が多い。


陳舜臣は『中国史』のシリーズ本を書いているが、それの詩人篇という感じの本。


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