お得な文芸誌
『新潮2023年11月号』
第55回新潮新人賞発表
新潮新人賞は選評を読んで三島嫌いなので伊良刹那「海を覗く」はパス。好みがあるから大江健三郎の影響を受けたという赤松りかこ「シャーマンと爆弾男」を読んだ。ドタバタ喜劇風だが、大江健三郎のリアリティがない(例えば大江健三郎『芽むしり仔撃ち』を読んだが死のリアリティを感じられる)。この作品は観念で書いたというような。川の洪水や大鷲が大江の作品をイメージしているのはわかるが、それが物語の中で生かされているのか?大江健三郎という作家が実際に存在しての大江文学なんだよな。まだそこが出来てないかな。大江文学を書くこと(ものまね)じゃなく、継承していくことだ。
戯曲 柳美里「JR常磐線上り列車/マスク」
実際に上演された芝居の脚本。「常磐線舞台芸術祭」というから、それに合わせて脚本を書いたのかもしれない。常磐線の路線駅で乗り降りする高校生を中心の会話劇だが、セリフだけだから文字だけで読むと亡霊みたいだ。
それは3.11「東日本大震災」の常磐線とコロナ禍の時の常磐線の高校生の会話で成り立つどらまで、マスクで繋がっている。つまり「東日本大震災」は放射能汚染ということでマスクをするということがあったのだ。またマスクをしての会話ということで、実際のLINEでの会話が現代の高校生像をつたえている。極端に省略した言葉とかLINEの中で応対は卓球のような感じである。
最初は何気ない日常会話なんだけど、3. 11の日の会話はけっこうキツイ。学校での会話だったが電話が繋ながらないとか、津波が来ているのに海の近くの家とか。最初はコロナ禍での会話だったのか、学校もオンライン授業になって、友達と会えないとかの何気ない会話だったのだが、3.11の方が疎開先の学校でのいじめの話とかつらめの話が多い。
最初の方はいまどきの高校生はこんな話し方をするのかと面白く読んでいたのだ。後半はあの頃のリアリティある生徒の恐怖を伝えていて、これはけっこう傑作かもしれないと思った。劇も見てみたい。
円城塔「実朝の首」
最初に太宰の言葉がエピグラフとして引用されているように、円城塔の『平家物語』の二次創作か?文学という謎の人物(密教僧か?)が『未来記』という書を表したことが現実に起きるというようなメタフィクション構造の『平家物語』。その一部の話だが、実朝が宋の高僧の生まれ変わりだとか、父義朝の首が届けられて頼朝が平家打倒の狼煙を上げたとか、平家によって焼かれた大仏の資金集めを西行が奔走するとか。後鳥羽院はひそかにこの『未来記』を読んで満足したという話が語られる。けっこう平家物語や西行の話や実朝の話の元ネタがあり、それらを踏まえて書かれたものなので錯綜している話になっている(円城塔を読み慣れない人には混乱する物語)。その時代に興味がある人は面白いと思う。文学的ではあるが。
小山田浩子「ミッキーダンス」
選者でもある小山田浩子は伊良刹那「海を覗く」は☓で、赤松りかこ「シャーマンと爆弾男」推しだった。小山田浩子は趣味が近いかもしれない。ただこの作品は連作短編だったのでいまいちよく分からなかった。男が喋りすぎるというか主婦的なんだと思った。悪ミッキーのゴーストを見たという妻に似ている(分身ぽい)人がいうのがタイトルとなっている。おしゃべり小説という感じ。
文芸誌の月間批評みたいなのは無くなっていた。書評では、ジュンパ・ラヒリ『思い出すこと』が気になった。
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