見出し画像

ガムテで留めだけの村祭

『新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」 アウトロー俳句』(編集)北大路翼

NHK「ハートネットTV」で紹介され大反響!
新宿歌舞伎町の片隅で俳句を詠む集団、
屍(しかばね)派による待望のアンソロジー!!

風俗店、キャバクラ、ホストクラブが立ち並ぶ、新宿歌舞伎町。
欲望が渦巻き、人々は騙し合う。勝者になれば王のごとく振る舞い、
敗者は静かに街を去っていく。

そんな歌舞伎町の路地の奥で、やりきれない思いを俳句に載せて
詠み明かす人たちがいる。
元ホスト、バーテンダー、女装家、鬱病・依存症患者、ニート……。
“はみ出し者"ばかりだ。

これは、新宿のアウトローたちが贈る
不寛容な時代に疲れたあなたのための
アンソロジー(句集)である。――本文より

軽トラで持つていかれたぬひぐるみ
キャバ嬢と見てゐるライバル店の火事
この毛布ぢゃないときつと眠れない
一番えらいのは伊達巻を考へた人
駐車場雪に土下座の跡残る
太陽にぶん殴られてあつたけえ
春一番次は裁判所で会はう
春の風邪キスをしてもうつらない
蒲公英(たんぽぽ)は倒れてゐることが多い
ウーロンハイたつた一人が愛せない
六本木ヒルズに行つたことがある
看板が濡れてお客が入らない……etc.

新興俳句は都市の季節感のなさによって無季を歓迎したが、「アウトロー」俳句は季節(故郷)を対比として使っているような気がする。主催の北大路翼はそのへんはスジを通すヤクザもんなのか有季定型の句が多く選ばれているような気がする。

無季だとアナーキスト俳句になるかもと思った。 例えば彷徨う都会生活でふと言霊として呼びこむのが季語としての共同体としての抒情だろうか。それは室生犀星がいう「故郷」なのだ。その対置が都会には虚無的に響く。だから「屍派」と言えども徒党を組む。一匹狼ではないのだ。

薬師丸ひろ子五十三歳快感です      こーたろー

薬師丸ひろ子が季語になるなんて笑った。誕生日が六月とか。6月9日生まれ。忌日が季語になるなら誕生日もか?

老婆かと思ったら内田裕也  花乃こゆき

内田裕也は季語とした場合はやっぱ夏なんだろうなとか?

六本木ヒルズに行ったことがある  海音寺ジョー

「六本木ヒルズ」は夏?冬?

そういう風に考えると背景としての物語が広がっていくのだ。それが短詩ではなく俳句の所以であるところなんだと想思う。

屁理屈も理屈もピンクさくらんぼ  北須賀香

喫茶店で出される炭酸ものに付き物の缶詰のさくらんぼだが、「さくらんぼ」の季語が夏以上にこの俳句は夏のイメージに溢れている。炭酸が抜け氷が水っぽくなった飲み物に色褪せたさくらんぼだけが取り残され、グラスの中に決着のつかなかった夏がある。読みを誘う俳句だった。

ラジカセをガムテで留めて村祭  喪字男

「ガムテ」というコミュニティは都会限定のあるグループを指す。そして、その対置に村祭があるのだ。しかし、この句の中に同時に存在する相反する二物衝動によって懐かしき音楽が流れてくる。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集