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全共闘世代の挽歌から
『無援の抒情』道浦母都子 (岩波現代文庫)
炎あげ地に舞い落ちる赤旗にわが青春の落日を見る-全共闘世代の闘いと愛と孤独をうたい,日常の風化に抗する意志表示として,熱い同時代的共感を呼びおこした歌集『無援の抒情』を中心に,自選の秀歌4百首を加えた新版.後藤正治解説.
内容説明
全共闘世代の闘いと愛と孤立をうたい、日常の風化に抗する意志表示として熱い同時代的共感を呼びおこした歌集『無援の抒情』を中心に、その後の歌集より自選した四百首を加えた。
『無援の抒情』は俵万智『サラダ記念日』がベストセラーになる前に最大のヒットとなった歌集であった。だから文庫本化されているのであり、今では考えられないかもしれないが同世代的に共感を得た歌集だった。同時代的に見れば『二十歳の原点』同じ歌集で岸上大作『恋と革命」の死 岸上大作』と似ているのかもしれない。そこに「革命」と「恋」の夢が同時に存在する青春文学なのであろう。「全共闘世代」の挽歌であるこの歌集は最初に「われらがわれに還りゆくとき」と題されているように、全共闘世代から個人へ「還る」短歌であり、そこに女性の生理や恋が詠まれていることが青春短歌であり、例えば父との葛藤は現代の歌としても通じる。
催涙ガス避けんと密かに持ち来たるレモンが胸で不意に匂えり 道浦母都子
「レモン」は実際に持っていたというよりも象徴なのだろう。そこに高村光太郎『レモン哀歌』や梶井基次郎『檸檬』が匂ってくる文学性。「レモン」の持つ酸っぱさや果実としての青春性。
ガス弾の匂い残れる黒髪を洗い梳かして君に逢いにゆく 道浦母都子
「黒髪」は和歌では和泉式部に短歌の与謝野晶子と共に恋の歌のテーマだった。学生運動の暗さとともに黒髪のつややかさも詠んでいる歌なのだ。
調べより疲れ重たく戻る真夜怒りのごとく生理はじまる 道浦母都子
センチメンタリズムの個人を感じる抒情性。彼女の血は生理なのだ。
夜を徹して縫いあげし赤旗も故なき内ゲバの血に染まりゆく 道浦母都子
内ゲバで亡くなった早稲田の学生の追悼歌だと思う。道浦母都子も早稲田の学生だった。
釈放されて帰りしわれの頬を打つ父よあなたこそ起たねばならぬ 道浦母都子
いつの時代にも父との葛藤はある。個人的な青春短歌だ。
お前たちにわかるものかという時代父よ知りたきその青春を 道浦母都子
父との短歌は多いのだが母の短歌は一首だけ。
無事を告ぐる長距離電話を待つ母の想いかすめてみだれゆく意志 道浦母都子
母はふるさとなのか?
あきらめて優しくなれる予感するふるさとの秋不意に恋しき 道浦母都子