架空の言語を作った男の映画
『ペルシャン・レッスン 戦場の教室』(2020年/ロシア・ドイツ・ベラルーシ)監督:ヴァディム・パールマン 出演:ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート ラース・アイディンガー
今日(2023.11.03)もしんゆり映画祭から普段みられそうもない映画。
監督はウクライナ出身の監督だった。主演のナウエル・ペレーズ・ビスカヤートは『BPM ビート・パー・ミニット』で同性愛のエイズ役を演じた人だった。この映画も良かった。ナチスものだけど設定が変わっている。毎年のように公開されるナチスものだが、設定がいろいろあるが、ユダヤ人側が教師でナチス側が生徒という変化球だ。それもペルシア語を教えるのだが、本人はペルシア語を全く知らずに言葉を作っていくのだ。
偽ペルシア人だと知っているナチス兵が恋人のために殺そうとするのだが、逆に恋人が前線送りになってしまって余計に敵意が増す。このへんの人間関係も面白い。ナチスのコッホ大尉は、元々は平和主義者であり、兄はナチス政権から睨まれてイランに亡命したのだが、その兄を追ってイランに行きたいと願っているのだ。虐殺されるところを偶然助けられて、大尉にペルシア語を教えることになるのだが、単語はすべて嘘であり、単語を作り出す方法をユダヤ人収容者の名前から連想するというアイデアが素晴らしい。これはラストの重要な伏線になっていた。
こういう映画はどう嘘を突き通して生き残るか、という映画としてはわかりやすいテーマだが、立場が逆転するところの面白さなのだが、シャーロット・ランプリングが出演した『愛の嵐』と似たような展開になるのだった(教える=教わるは愛の行為)。つまり大尉の中に愛ではないが友情が生まれてくるのだった。大尉が偽ペルシア語で詩を作って朗読するところで、大尉ではなく名前で呼んでくれというのだが、ユダヤ人青年のジルはそれを拒むのだった。ここでも名前が重要な意味があるのだ。
イギリス兵の捕虜の中にペルシア人がいて、あやうく彼の立場が危うくなるシーンがあるのだが、兄弟ユダヤ人を助けたのでその兄に救われるのだが、ナチス兄弟の話とユダヤ人兄弟の話を交差させて、生きたいと思っていたジルの内面に変化が生じる。兄の自己犠牲的精神に彼も自己犠牲的精神を発揮しようとするのだが、大尉によって連れ戻される。そしていよいよドイツ敗戦の日が近づいて、収容所は証拠隠滅作業に入るのだが、その時に大尉は逃亡してユダヤ人のジルも一緒に連れ出すのだった。それが彼の友情なのだが、空港で税関を得意のはずのペルシア語が通じなくて逮捕されるのだった。一方彼は連合軍に保護されるのだが、収容所のユダヤ人リストを空で言えるほどに言葉=名前を覚えているのだった。ここは泣けた。