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働く5/36歌仙

『うたわない女はいない』働く三十六歌仙

食っていけるの?そう笑ってた人たちをシャネルのバッグでいつか撲ちたい――会社員、パート、教師、保育士、精神科医……いま刮目すべき歌人36名による、心撃ち抜く労働短歌&エッセイ!
俵万智×吉澤嘉代子の対談「短歌が変える女たちの現実」も収録。

◆辞めようと思うよなんてそんなことラーメン二郎の前で言うなよ
◆業界の未来を語るおじいさんおじさんおじさんおじいさんおじ
◆軍手には引っかからないデザインを選んで買ったマリッジリング
◆食堂は嵐の前の静けさで、来た、来た、嵐「そば」「うどん」「うどん」
◆日銀を白銀と読み間違えてほのあかるいな今朝の紙面は 

◆歌人一覧
浅田瑠衣/飯田有子/石川美南/稲本ゆかり/乾 遥香/井上法子/上坂あゆ美/遠藤 翠/岡本真帆/奥村知世/川島結佳子/北山あさひ/鯨井可菜子/佐伯 紺/櫻井朋子/田口綾子/竹中優子/谷じゃこ/田丸まひる/千原こはぎ/塚田千束/手塚美楽/寺井奈緒美/道券はな/戸田響子/十和田 有(ひらりさ)/西村 曜/野口あや子/橋爪志保/初谷むい/ 花山周子/平岡直子/本多真弓/水野しず/山木礼子/山崎聡子
目次
“働く”を考える
女が働く現場から
だいじょうぶじゃないとき
不器用なままで
働くうれしさ
未来に驚いて



解説に俵万智t吉澤嘉代子(シンガーソングライター)。「おしごと小町短歌大賞」の受賞作なのだが、セミプロという人も混じっていて、「おしごと小町大賞」とかのコンテストなんだが、プロ(短歌で食えてないからセミプロ)が参加していて、アマチュアとの差は個人なのか社会なのかということだと思った。だいたい和歌が貴族の働かない者たちの文化だった(女房たちは働いていたのか)、その中で上司の男(天皇を頂点として)を喜ばす疑似恋愛短歌を詠んでいたのにと思う。働く三十六歌仙という言い方も歌仙だから歌だけで喰っていける人なのかと思う(将来的に)。選者が俵万智とシンガソングライターで食っていける人たちなのだ。それに対して非正規のハケン社員の歌とか悲惨極まりない。

子の熱で休んだ人を助け合うときだけ我らきっとプリキュア

これが大賞だった。こういう会社は不合理なんだけど不合理性がまかり通っている企業の中で、プリキュア(プリキャリアか?)にならなければやっていけない日本社会の現状だった。それは共感するということで、誰もが許してしまっていいものだろうか?

たとえば医療従事者の人が人を切り刻んだり薬漬けにしながら社会復帰させるのは、またポンコツになるのがわかりきっているのにやらなければならない仕事だと納得させているという。そういうエッセイ付き短歌だからエッセイの方が読ませると思う人も。

竹中優子

『うたわない女はいない(働く三十六歌仙)』から。芥川賞候補になった竹中優子が入っていたから図書館で借りた。竹中優子は小説家よりも歌人として最初に出会ったのだが、ここでも面白い短歌を詠んでいた。

新人に泣かされるパートリーダー 竹中さんは頷いている 竹中優子

短歌は一人称の文学と言われるのだが、三人称視点。でも本人だから一人称的ではあるのか?「パートリーダー」という現代の言葉。非正規雇用の実体を詠んでいるような。すでに小説的である。

ただ仕事ができないことで人を泣かす新人は長崎のお菓子を配る 竹中優子

非正規雇用の実体なんだが、愚痴でありながら新人も生き残りに必死な姿を感じる。

髭敬語 たぶん呼ばないまま終わるあだ名をひとつ思っていたり 竹中優子

竹中優子の面白さは固有名詞を使わずにキャラ設定して登場させることかな。髭敬語=卑下敬語よいうようなあだ名は上司には呼べないか。

平岡直子

けっこう天邪鬼の歌人で好きなのだがけっこう本質を突いていると思う。

原曲をよく知らなくててきとうなドナドナを繰り返し逃げ切る 平岡直子

プリキュアよりドナドナなのだ。市場に運ばれていくドナドナ。平岡直子は短歌のために両手を空けて生きてきたという。それはまともに働くことなく、いつも非正規労働なのだ。それも身体が動くから出来ること。年老いての仕事だとは思わない。だから両手を空けて短歌を作りプロになろうとしている覚悟性があると思う。

時給制で幽霊をやっているのね スパンコールのように光って 平岡直子

立ちん坊(ガードマンとか)とかのハケンだろうか。この歌は現実だ。

ゆうぐれには無限の可能性がある 試食を口にいれてまわった 平岡直子

彼女にはたくましく生きのびてほしい。

上坂あゆ美

いまをときめく歌集『老人ホームで死ぬほどもてたい』の歌人だった。

またやってしまったのだと気づくときあなたが吐いた二酸化炭素 上坂あゆ美

こういうことを云う企業が一番の害悪なのに。人が呼吸するだけの二酸化炭素では地球は消滅しない。

地球には性別というものがある 謝らないでよ、悪くないのに 上坂あゆ美

謝り癖がつくというか、とりあえず謝っとけみたいな。女性では特に多いのか?

いつもありがとう青汁 健やかな自傷行為をしてからねむる 上坂あゆ美

青汁健康法とかスクワットとか。毎日走って結局膝を壊したり。

初谷むい

好きな子の名前を呪文みたいに歌みたいに呼ぶみたいにとなえた うん 行くね 初谷むい

初谷むいは短歌呪術師と認定する。定型を無視した形なれど「みたい」の三回リフレイン。すでに呪文を唱えているのだった。好きな男のを職場へ召喚する言霊力は半端ない。

いきる と思った 月が出ていて、みていなかったけど、あると知っていていた 初谷むい

初句のインパクトは現代短歌の常道なのでそうである(俵万智談)。月をみてないのに存在を感じられる当たり前の短歌だけど、言葉にするとすごい。神に通じる。

がんばるぞとちいさく言えばがんばろうとするわたしのからだ さあ 初谷むい

むいは無為からきているのかな。言霊力が半端ない感じ。「さあ」が御呪いで さあ。

野口あや子

食っていけるの?そう笑ってたひとたちをシャネルのバッグでいつかちたい 野口あや子

帯の宣伝短歌として使われたので人気だった。コピーライティング短歌のようなのは「シャネルのバッグ」で「撲ちたい(ぶちのめしたい)」という強い庶民の願望か。

マスクの下で口角上げてほほえめりjapanese traditional poet らしく 野口あや子

「Japanese traditional poet」という主張が「成り上がり感」を示す。彼女は英語が出来なかったのだが自主的にえいごを勉強してこのレベルまで成り上がったということだ。帰国子女のゴーストライターとかで食っていけそうだ。

HAIKU より少し不毛なTANKAという地にしとしとと注ぐ甘露よ 野口あや子

国際的にはHAIKUの方が流行りなんだろうな。TANKAはまだマイナーポエットなのかもしれない。


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