「サマータイム」を聴きたくなる物語
『八月の光』ウィリアム フォークナー (著), 黒原 敏行 (翻訳)(光文社古典新訳文庫– 2018)
お腹の子の父親を追って旅する女、肌は白いが黒人の血を引いているという労働者、支離滅裂な言動から辞職を余儀なくされた牧師……近代化の波が押し寄せる米国南部の町ジェファソンで、過去に呪われたように生きる人々の生は、一連の壮絶な事件へと収斂していく。ノーベル賞受賞作家の代表的作品。20世紀アメリカ文学の傑作!
八月に一気に読もうと思ったがやっぱ大作だった。光はリーナとその子供に託されているのだと思うが、対となる闇ジョー・クリスマスの黒人の血を引いたアメリカ南部の暴力の物語。そこで影(ゴースト)のように登場してくるジョアナはむしろジョーの愛人で狂信的な人物として、彼女こそがフォークナー物語の魂を継ぐ人物。ジョアナの父親は北部から南部ジェファソンに来た元牧師。奴隷制反対論者で父と息子を殺された。そのストーリーは『アブサロム、アブサロム!』と『響きと怒り』(「ヨクナパトーファ・サーガ」と言われる架空の世界の物語群)と反響し合う。
それでも父は復讐しない無力な人だった。ジョアナはジョー・クリスマスにこの話をする。父の無力性とクリスマスの暴力性。アメリカ南部の暴力性を引き継いでいるのはジョー・クリスマスだった。それに対抗する父の無力性を意味ある死にしなければジョアナ自身の存在価値、一族(フランス系のキリスト教徒)の「スピリチュアル・ユニティー」の問題でそれを死守しなければならない。これはニーチェの『道徳の系譜』かも。徹底的に南部の白人男(だから自身の中にある黒人の血を呪った)であるジョー・クリスマスは理解できないで、暴力に訴える。
この愛憎関係のストーリーはラブストーリーではないけど悲劇だ。前半は圧倒的な力技だけど後半はわりとダラダラした感じを受けたのは元牧師のハイタワーがは優柔不断なせいだろう。ハイタワーは名前がそうであるように高みの見物的人物で、良く言えば物語全体を見渡す作者の視点。物語の解釈者。狂信者女ジョアナと天然娘リーナを繋ぐ存在なのか。
BGMジャニスの「サマータイム」~アルバート・アイラー「サマータイム」~アイラー「ゴースト」~マハリア・ジャクソン「サマー・タイム~マザーレス・チャイルド」