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三巻本は無駄に長い。中巻を飛ばしてしまった。

『蝦夷地別件〈上〉』船戸与一 (新潮文庫)

時は18世紀末、老中・松平定信のころ。蝦夷地では、和人の横暴に対する先住民の憤怒の炎が燃えあがろうとしていた。この地の直轄を狙い謀略をめぐらす幕府と、松前藩の争い。ロシアを通じ、蝦夷に鉄砲の調達を約束するポーランド貴族―。歴史の転換点で様々な思惑が渦巻いた蝦夷地最大の蜂起「国後・目梨の乱」を未曾有のスケールで描く、超弩級大作。日本冒険小説協会大賞受賞。

『ゴールデンカムイ』はアイヌと日本人の浪漫が描かれているがこの小説はかつて日本人がアイヌに対して行った虐殺を描いている。映画『シサム』はその前のアイヌの反乱を描いたものだが、そのあとにも悲惨な歴史があったのだ。

北海道が蝦夷地と言われていた時代はアイヌが先住民として居住していたが日本は植民地化するべく荒くれ者の一攫千金の土地としていた。それはチェーホフ『サハリン島』が流刑地であったように、江戸での反乱分子を蝦夷地に送り込む幕府の意図があった。アイヌを服従させるのも暴力の支配世界と成っていく。蝦夷地では農作物は出来ないので年貢の代わりに金銭を渡せば誰でも入植できたのである。自然(カムイ)を搾取する最前線。それは沖縄でも同じなんだろうと思った。『琉球処分』という小説が話題になったが植民地支配の構造が背景にある小説。

その最悪な具体例が和人によるアイヌの女たちのレイプなのだ。それは恐ろしく暴力的な構造がそこにある。それがやがて満州などの植民地支配に繋がっていくのだ。

アイヌの青年ハルナフリは長になるべく人物として描かれているが、まだ力を発揮できないでいる。そんな蝦夷地にやってきた日本人の僧侶である仙元(せんげん)と静澄(せいちょう)。幕府は蝦夷地を荒くれ者たちの別天地にするように仕向ける。それはチェーホフの描く『サハリン島』のような囚人たちの隔離島のような意図で都(江戸)から謀反者を追い出す目的もあった。それらのものが一攫千金を狙い蝦夷地を植民地化し、幕府は米の代わりに金銭を得る。

『琉球処分』と似たような日本が単一民族ではなく、かつての蝦夷地にはアイヌのような先住民が住んでいたところに日本人が侵略してきたという構図だろうか?アイヌは国家と呼べるようなものはなく、長が大家族的に収める部族制であり、とても日本人には太刀打ち出来ないでいた。

かつての反乱分子は日本の武力の前に従属させられていった。それは戦に負けたからではなく狡猾な日本の騙し討ちだったということが、アイヌに再び反乱の準備をさせていた。それは南下政策のロシアと日本の争いによって、ロシアの商人(ポーランド系)がアイヌに武器(鉄砲)を渡して反乱を助けるというものだった。そんな内密の反乱が企てようとされる中でハルナフリの祖父はその組織に加わるが、未遂に終わる。

仙元らは日本国が荒くれ者を統治するために遣わした僧侶だった。仙元は臨済宗、静澄は天台宗で二人とも医術にも長けている僧侶でアイヌ救済をするためにやってきた坊主だった。しかし二人の本当の思惑はまだ見えてこない。仙元のほうがは一攫千金よりも浪漫を求めているような気がするがその浪漫が何かは不明。

『蝦夷地別件〈中〉』船戸与一 (新潮文庫)

世界史的な視野で蝦夷の蜂起を描く超大作

国後を暗い影が覆った。長く患っていた惣長人サンキチが、ついに幽境に旅立ったのだ。和人からもらった薬を飲んだ直後の死だっただけに、毒殺の噂がまことしやかに囁かれ始める。――惣長人は和人に殺された。主戦派の若き長人ミントレを先頭に、和人との戦いを叫ぶ声が一気に高まるなか、鉄砲がなければ和人と戦うべきではないとする脇長人ツキノエの主張は次第に掻き消されがちになっていく。サンキチの歳の離れた弟で、妻とお腹の子も和人に殺されたマメキリ、さらにはツキノエの息子セツハヤフまでもが主戦論へと傾き、彼ら若い世代の長人たちによって、ツキノエの惣長人への就任は見送られることになった。ロシアからの鉄砲300挺はまだ届かない……。その頃、かの地で鉄砲の調達に奔走していたマホウスキは、頼みの後ろ盾を失ったばかりか、自らも皇帝特別官房秘密局に捕らえられ獄中に繋がれてしまっていたのだ。一方、国後ではある男の暗躍が続いていた。アイヌの和人に対する怒りを煽り、蜂起を促そうとする男の狙いとは? そして彼を動かしている人物とは? そんななか、若き長人たちはツキノエを択捉へ赴かせ、その間に事を起こそうと動き始める。

『蝦夷地別件〈下〉』船戸与一 (新潮文庫)

アイヌ民族の戦いを描いた歴史巨編、完結

ついに国後で始まった和人との戦い。蝦夷地全土に渦巻く不満、すべてのアイヌが抱える悲憤――。自分たちが立ち上がれば、厚岸、忠類、野付嶋など各地のアイヌが次々に後に続くと信じて起こした戦いだった。しかし、アイヌ民族の一斉蜂起という願いは叶わず、叛乱に立ち上がったのは、国後と忠類のほか目梨地方のわずかな地点にとどまった。そこへ新井田孫三郎率いる松前藩の鎮撫軍が、大砲さえ擁する圧倒的な装備で鎮圧に迫る。さらには厚岸の惣長人イコトイが、自分の地位の安泰を図って鎮撫軍に擦り寄る動きさえ見せはじめた。もはや勝ち目はなくなった。負けを覚悟で徹底抗戦を続けても、それは厚岸をはじめ鎮撫軍に与する同胞と戦うことを意味するのだ。松前藩から示された降伏の条件は、恭順の徴に貢ぎ物と人質を差し出し、首謀者を樺太送りにすること。しかし、この戦いを終わらせるために、国後の人々はさらに大きな犠牲を払わなければならなかった……。民族の誇りのために命を賭したアイヌの思いは報われたのか。そして、江戸幕府の描いた「日本」という国の形とはどのようなものだったのか。蝦夷の地に革命の時代を凝縮させた渾身の歴史超大作、ここに完結。

松前藩のアイヌとの理不尽な交易のためにアイヌの反乱(江戸幕府が煽った)が起きるがアイヌの中に裏切り者の長がでて和人と組んで蝦夷地の長となる。江戸幕府は蝦夷地を対ロシアの拠点として松前藩に変わって支配する。松平定信の近代化政策か(水戸学=国体思想)?それが逆に江戸幕府を尊王攘夷思想で滅ぼすことになる。

アイヌ人の同化政策によって反乱分子のアイヌは一斉に粛清される(松前藩が反乱分子を抑えた形になった)。それに立ち会ったアイヌ寄りの僧侶だった仙元は、アイヌの処刑に反対して目を斬られて盲目になる(何も見なかったことにした)。もう一人、清澄はアイヌを拠点として仏教を広めたとして本土に戻って高僧になった。

仏教がキリスト教の世界進出を促した役割を蝦夷地で行ったのだという展開が面白い。その清澄が証言者としてこの物語を書いたのかもしれない(アイヌよりの仙元と日本寄りの清澄との役割分担)。

ハルナフリはクナシリに追いやられるが復讐するために機会を伺っていた。眼の前で仲間たちの処刑を見たのだ。そして陰謀に加わったアイヌたちは生きながらえていた。後半はハルナフリの復讐譚になっていく。ハルナフリに剣術を教えた幕府の間諜葛西政信はハルナフリの初恋のアイヌ娘キララを妻にして子供も生んでいた。その政信の命も狙っているのだ

ロシアから独立したいポーランド貴族の思惑、アイヌ人に武器を与えててロシア人に対抗させるという目録は失敗に終わる。これはわかりにくいので無くても良かったかもしれない。

上下巻だけかと思ったら中巻があったんだ。中巻抜かしてしもうた。まあそれでも物語は繋がった。全3冊は無駄に長いような。一冊にまとめられないものか(それでも700p.ある)。

アイヌの反乱に付け込んで国家としての基盤をつくっていく日本という国の歴史は、アイヌ人の犠牲をともなった。それによってアイヌの同化政策を進めた。『琉球処分』と合わせて読みたい日本の暗部の歴史。

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