オリュウノオバは石牟礼道子だった
『西南役伝説』石牟礼道子 (洋泉社MC新書)
村の歴史を貴族や武士の世界から見るのではなく、そこに生きた農民や下層の者たちの話から世界を構築していくという聞き書きの歴史。高度成長期で失われていく自然のなりわいの姿を100歳ぐらいの老人(昭和30年代)だと日本の近代化の姿が見えてくる。天皇の支配が及ばない時代から薩摩藩が賊軍となっていく西南の役はお上同士の戦争であり、農民はその被害を受けて(今のパレスチナと同じであり、勝手に戦争を始めるのは権力を持つものだった)、それが天草・島原の乱から水俣闘争へと繋がっていく民族学的な歴史なのかもしれない。そういう上からの文字による歴史ではなく下からの口承による文学、例えば説経節とか歌謡とかで村人に伝わる話。
石牟礼道子さんは中上健次の小説にでてくるオリュウノオバだった。それが伝承という物語の姿なのだろう。
このルポルタージュが『苦海浄土』や『春の城』につながっていくのだった。村の古老の騙る方言から独特な石牟礼道子の騙りになってくるのだ。資料とか入ってくるところははっきり読みにくいが、騙りの美しさというか、語り部のオバアの声が聞こえてくるような文体は魅力的である。虚実皮膜の幻想譚みたいな話になっていくのだ。
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