都会の理想郷の裏に潜む村の掟
『理想郷』(2022年/スペイン・フランス)監督:ロドリゴ・ソロゴイェン 出演:ドゥニ・メノーシェ、マリナ・フォイス、ルイス・サエラ、ディエゴ・アニード、マリー・コロン
スペインのガリシア地方へ移住してきたフランス人夫婦が出会う災難なのだが、フランス人嫌悪の住民感情と理想郷の折り合いが付けずに事件と発展していくホラータッチのミステリーか?ミステリーなんだけど伏線を回収しないで最後は情(愛)に訴えるという変化球映画になっていた。
そうか、サム・ペキンパー『わらの犬』に比較されるというのは納得するが、レイプシーンとかありそうでなかった。夫がヤンキー的な兄弟と対立するのだが、それは夫がフランス的な理想(理性)主義なんだけど、共同体のナショナリズムを理解していなかった。夫が現代の隠しカメラとか使うのだが、ほとんど役立たずになっている。番犬からして、兄弟に慣れてしまっているのだからどうにもならない。
作風としてはアリ・アスター監督『ミッドサマー』のような不穏な土地の伝統みたいなものを感じた。こういう場所では現代の論理はあまり役には立たない。妻はそういうのを知っていたのか?妻の方が村の掟みたいなのをわかっているようで、地元住民とも仲良くなれるタイプのようだ。
ガリシア地区というのは、スペインでも独特な文化があるところでオープニングで裸馬をねじ伏せてしまう気性の荒い男たちが紹介される。またガリシア音楽も独特なものがある地方でもあった。
今話題の『ナポレオン』もそうだけど度々フランスによって侵略されたので、その恨みも根深いものがあるのだ。そして過疎地域であるゆえに風力発電の土地にしようとするのに反対するフランス人だから、保証金が欲しい兄弟からは余計に疎まれるという構図だった。要は頭のいい奴が勝手にやってきて村の慣習を勝手に壊しては困るという過疎地域なのだ。風力発電に対峙する男の姿はどことなく「ドン・キホーテー」を連想させた。
ほとんど夫と兄弟の諍いなのだが、妻は争うことを好まない。結局夫は兄弟に殺されてしまうのだが、隠しカメラとかやっているのに文明の機械が役に立たない。普通こうのは伏線を回収するためのアイテムだと思うが、ほとんどそれが回収していかないのだ。半分イライラするようなドラマなんだが。妻も夫が行方不明なのに日常生活か崩さず畑仕事などをしている。たまりかねて娘がやってきて、こんな村を離れろと言うのが母は言うことを聞かないのだ。夫が求めた理想の土地だからそこに骨を埋める決心をしているのだ。
妻のこの気持ちはなかなか理解できないけど女のプライドみたいなものかとも思える。逃げ出したら負けみたいな。そういう部分で肝っ玉母さんなんだが、それは兄弟のところにいる母親がやはりそんな感じだった。お痛が過ぎた息子はまともな社会ならそういう目に合うのだと妻が勝つのだった。夫が殺されているのだから勝ちということはないのだが、村の掟によって妻の永住が認められたという感じの映画だった。怒らせたら女の方が怖いという映画だったかな?
通常の展開ではないのに映画に引き込まれるのは役者の演技力と自然の美しさということだろうか?都会人はそういう美しさに憧れるがその裏にあるどろどろした人間関係もセットとなって特別な土地なのだろう。独自文化が強いところでは。