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カルメンはアフリカ起源?

『カルメン/タマンゴ』メリメ , (翻訳)工藤 庸子 (古典新訳文庫)

「あたしたちの仲はすっかりおわったんだ。おまえさんはあたしのロム[亭主]なんだから、おまえさんのロミ[女房]を殺したらいいんだよ。でも、カルメンはいつだって自由なのさ」。 追えば逃げ、逃げれば追う。自由奔放に生きる情熱の女カルメンは、いまも生きている!
物語純粋で真面目な青年ドン・ホセは、カルメンの虜となり、嫉妬にからめとられていく。軍隊を抜け悪事に手を染めるようになったホセは、ついにカルメンの情夫を殺し、そして……。(「カルメン」)。黒人奴隷貿易を題材に、奴隷船を襲った反乱の惨劇を描いた「タマンゴ」。傑作中編2作を収録。
目次
タマンゴ
カルメン

翻訳が『大江健三郎の「晩年の仕事」』を書いた工藤庸子だったので興味を引いた。メリメのフランス革命以後の辺境に対する興味が両作品を書かせたという。

ドン・ホセがミイラ取りがミイラとなってしまう展開。また『ドン・キホーテ』の影響を受けているというのは興味深い指摘だった。

タマンゴ

『タマンゴ』は黒人奴隷の反乱を描いたもので、メルヴィル『漂流船』と似ている。1829年に書かれているので黒人奴隷の反乱としては早い時期に書かれたものだが、フランス革命のナポレオンの100日天下の時に生まれたので彼のナポレオンに対する親近感というようなもの。

主人公のタマンゴの姿もナポレオンのような感じを受ける。メリメは「タマンゴ」の構想はハイチでの黒人奴隷の反乱をヒントに得たという。奴隷船の中でのナポレオン的黒人奴隷のアンチヒーローの「タマンゴ」を描く。ユゴー『レ。ミゼラブル』のジャン・ヴァルジャン的人物だと解説での指摘はなるほどと思った。マタンゴが信仰するのは、キリスト教でキリスト教以前の悪魔礼拝的なブードゥー教なのだ。もうこれはミンガスの「ハイチ人戦いの歌」をBGMで読みたい。

カルメン

カルメンはメリメの小説よりもビゼーのオペラの方が有名なのはカルメンの物語を本来の三部構成に戻して、「ファム・ファタール(運命の女)」の気まぐれ女とフランス人竜騎兵伍長の悲恋物語としたことで人気を博した。有名な「ハバネラ」は、ジプシー女の「恋の歌」ということだった。

語り手ホセはバスク地方出身の古典学者というフランスの周辺住民なのだ。ドン・ホセがミイラ取りがミイラとなってしまう展開はスペイン文学の『ドン・キホーテ』を模範にしているという。

また『カルメン』はナボコフ『ロリータ』にも影響を与えた。その流れを理解すると『ロリータ』も「ファム・ファタール(運命の女)」ものの「ドン・キホーテ」の語りだと理解出来る。評判の悪い第四章は後から書かれた自己解説というべき批評文だとすれば、それがメリメの「晩年の仕事」になるのだ(大江健三郎とも繋がっていく)。そういう意味でメタ・フィクション的な小説なのである。特にカルメンを単にジプシー女(それはフランス人から見た差別用語)でありメリメの第四章ではヒターノ(ヒターナ)に言及している。それはアフリカ系起源を持つロマであり、カルメンがエジプトに言及するのもクレオパトラの血を引いているからかもしれない。ブイカのフラメンコを想像する。

またヒロイン「カルメン」には男に縛られない自由を求める素性からはフェミニズム的要素を読み取っている(工藤庸子の解説)。


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