ドイツからの転校生に胸キュン
"Jutta Hipp At The Hickory House Vol.1 (Remastered)"
レナード・ファザーの紹介の後の自己紹介が転校生のようで胸キュンしてしまいます。穐吉敏子と同じように、敗戦国(アメリカの文化的勝利を感じさせます)のドイツからの渡米したピアニストです。ジャズ評論家レナード・ファザーの力添えでブルーノート・レコード(創設者アルフレッド・ライオンもドイツ人で縁があったのか)に何作か吹き込んでいます。「ヒッコリーハウス」というのはステーキ・ハウスだったんですね。「ドナドナ」を連想させていまうような。それもユタ・ヒップのジャケットの悲しそうな顔の印象ですかね。
一曲目、"Take Me In Your Arms"昔ドラマで「細うで繁盛記」というTVドラマがありました。彼女の腕も細い感じがするのです。ドラマのオープニングで「銭の花の色は清らかに白い。だが蕾は血がにじんだように赤く、その香りは汗の匂いがする」と新珠三千代のナレーションが入るのですが、そのままレナード・ファーザーに英語で言ってもらいたいぐらいです。そのアメリカの都会(ニューヨーク)に出てきたドイツ移民の郷愁を感じさせます。シングルトーンの短調な響きはソニー・クラークを連想させて、そのへんも日本では人気盤なのではないでしょうか?一曲目から袖口を掴まれてしまう感じになります。
二曲目、"Dear Old Stockholm"パウエル・ライクリーなピアノは穐吉敏子と同じなんですが、サイドメンがレニー・トリスターノ門下のベーシストのピーター・インドとこの直前にレニー・トリスターノのサイドメンだったドラマーのエド・シグペンで期待の高さが伺えます。パウエル世代のあとのソニー・クラークのマイナー調の感じで、硬質な感じがするのはドイツ人という偏見もあるのかもしれないです。それがこの曲にストックホルムより寒いニューヨークという感じがします。とにかく、選曲が素晴らしい。
"Dear Old Stockholm"は、晩年のパウエル名盤『バド・パウエル・イン・パリ』での名演が有名ですが、それに劣らない演奏だと思います。パウエルがヨレヨレなのに、ヒップはきっちり演奏しています。他にもスタンダードの名曲を新しく聞かせているのはサイドメンの影響もあるのかもしれません。
またB面一曲目(ここでは六曲目)の"Mad About The Boy"も胸キュンの演奏で、その刹那さが今でも人気盤のひとつなのかなと思います。彼女は他にかつてブルーノートに録音したロストテープまで発見されて、再発行されていることから根強いファンがいるのでしょうね。
ラストの"The Moon Was Yellow"が素晴らしい。明るい太陽ではなく、「ヒッコリーハウス」というライブステージで月の光に照らされて弾く彼女の姿が想像されます。ライブ感溢れる録音もいいですね。
(ジャズ再入門vol.46)