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みなとのよーこ横浜、横須賀ストーリー

Yokosuka1953』(2021 年/日本/ 107 分)監督:木川剛志 撮影:木川剛志 上原三由樹 関戸麻友

それはたった一本のフェイスブックメッセージから始まった
1947年、戦後混乱期の横須賀に外国人の父と日本人の母の間に生まれた、木川洋子。過酷な環境、当時の社会状況の中で、最愛の母と離れて5歳の時に養子縁組でアメリカへと渡る。それから66年。日本に帰ることも、母の音信を聞くこともなかった。同じ名字を持つ木川剛志に送ったメッセージ。洋子の記憶の中の思い出に向かう旅が始まった。

映像作家にして和歌山大学教授の木川剛志のSNS に寄せられた『木川洋子を知っていますか。』というメッセージ。この不思議なメッセージをきっかけに、剛志は歴史の波に翻弄された一人の女性の66 年にも及ぶ悲痛な思いを知ることになる。彼女の日本名は木川洋子。その母木川信子を探していると。その祈りのような願いの一端を道標に、剛志は北米に飛んだ。神奈川県横須賀市にある洋子のゆかりの場所から縁者を探し、そして母、信子が終焉を迎えた地、東京八王子までの足跡をたどる長い旅が始まった—

気鋭の映像作家木川剛志の元に寄せられたSNS のメッセージを頼りに戦後の歴史の波に翻弄された混血孤児の数奇な運命を静かな映像で紡ぎ出す圧巻のドキュメンタリー作品。2022 年5 月CX-TV「奇跡体験アンビリバボー」でも取り上げられ大変な反響を呼んだ。

米軍と日本人女性の子供の悲劇としては森村誠一『人間の証明』が有名だけど、これはドキュメンタリー映画としての感動があった。

横須賀と言えば基地の街で戦後混乱期の状況とかもっと知られていたのかと思ったら今の人にはあまり知られていなかった。映画好きなら『人間の証明』もそうだけど『豚と軍隊』とか今村昌平監督のドキュメンタリー『にっぽん戦後史 マダムおんぼろの生活』が有名だ。

そういう歴史の暗部は学校では教えないし、TVでもめったにやらない(戦争特集ぐらいか)。朝鮮戦争やベトナム戦争での米兵の自暴自棄ぶりは小説にもなっている。ただその陰で女性と子供がもっと悲惨な状況だったというのが誰も語りたがらない。

このドキュメンタリーが凄いのは洋子さんがアメリカに行ったあとの悲惨な体験を語っていることだった。それはいじめ、性的虐待、人種差別という現在の難民の子どもたちが抱える問題だった。日本人はそういうことを経験してきた国なのだ。敗戦を終戦と言い換え、米軍支配を友好国のように言っているが、はっきり言えば敗戦国であり、それからは属国であり、占領下では日本人の人権なんてなかったのである。とくに女性は。一時期台湾や東南アジアで回春ツアーなどあったが、そういうことが敗戦後の日本でもあったのだ。なにより政府が米兵のためにキャバレーを作り売春斡旋していたことはここでも語られていた。

そんな悲惨な状況の中を生きた母と娘のドキュメンタリーだ。母はすでに亡くなっていたのだが日本に来て洋子さんの母を知る人の思い出話や、彼女が住んでいた場所、さらに母の晩年暮らした八王子での生活。それらは一本の映画を観るようなストーリーを語っていた。洋子という名前が日本とアメリカを繋ぐ太平洋からの命名だと知るのだが、まさに彼女の人生そのものが日本とアメリカの架け橋となっていたのである。


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