『美と殺戮のすべて』芸術家のスタイルとしての告発運動映画
『美と殺戮のすべて』(2022年/アメリカ/カラー/ビスタ/2h01)監督・製作:ローラ・ポイトラス 出演・写真&スライドショー・製作:ナン・ゴールディン
薬物中毒を告発する写真家ナン・ゴールディンの活動と半生のドキュメンタリー。製薬会社を経営するサックラー家は慈善活動家でもあり、美術館や芸術活動に寄付をしているが、自社のピオイド系の鎮痛剤オキシコンチンの薬物中毒(依存)で多数の死者を出しながら責任を取らず薬を売り続けていた薬物公害の利益を上げ、それを慈善活動家として振る舞っていた。
自身が薬物依存になり生死の境を彷徨ったナン・ゴールディンは主要美術館で展覧会をやるほどの芸術家なのだが、彼女が告発のNGOを立ち上げて、美術館でパフォーマンス抗議運動を続けて、やがて有名美術館がサックラー家の寄付を拒否することになったり、告発の運動が進んでいく。NYのアンダーグランドの芸術家の芸術活動とそうした運動との相互作用というようなNYのアンダーグラウンド芸術シーンのようなドキュメンタリーで、単なる告発ものではない面白さがあった。
何よりもナン・ゴールディンの半生が姉の両親への反抗から施設や精神病院に送られた自殺したことからへの自身の芸術活動の原点があり、美術館のスポンサーである資本家に対しての抗議運動を展開していく。告発ドキュメンタリーなのだが、ナン・ゴールディンと写真家としての生き方や芸術活動の映画にもなっているのが、面白い。というか映画自体がナン・ゴールディンの作品のようで、スライドショーの映像や、音楽的センスが感じられるアートドキュメンタリーのような映画になっている。抗議運動もパフォーマンス的であり、NYのアンダーグラウンド・アート・シーンを観ているようだった。
日本だとこういう政治運動をするアーティストは拒否されるのだが、芸術家が率先して薬物会社を告発する運動が自身のアーティストとしての反権力活動なのだというのが理解出来る。薬物訴訟は日本でもエイズ薬の問題とかあったが、芸術家が率先してやるということはないと思う。特に自身が関わる美術館での抗議運動は長いものには巻かれろという日本では見られない運動なので刺激的な映画でもある。
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