戸森しるこ(2023)『ココロノナカノノノ』光村図書
ほんとうはうまれてくるはずだった、ふたごの妹の野乃。
その子とずっと生きている寧音。
ふたごだからか、切っても切りはなせないふたりの強い関係性がしずかに描かれている。
母親の奈菜ちゃんも父親の正夫くんも、母や妻、父や夫である前に、ひとりの人間であるさまが凛として美しい。
そのふたりをみて育った寧音も、じぶんがじぶんでいるためにすっくと立ちあがるための地面をさがしているように生きている。
じぶんは野乃とふたごの姉妹、とずっとおもっていたところに、妹がうまれることになる。
妹がうまれてきたら、野乃のことは次第に忘れられて、じぶんはふたり姉妹ということになってしまうのではないか、という不安にかられる。
最後に、そこでうまれた妹のるる視点でその後の世界が描かれる。
るるは寧音の愛をあびて育っている。そのことがわかり、すこしほっとする。
しかし、それも束の間、最後の一文で衝撃が走る。わたしはすこしぞっとすらした。ずっとじぶんのなかにいた野乃が、やはりまだそこにいて、そういうかたちでここに出てくるか、ということに。
これは物語だということはわかっているが、家族やまわりのひとはそれでもいいのか、とおもってしまう。いや、寧音はまわりがたとえちがう意見をもっていても、じぶんの人生を生きるのだろう、とおもわせられるだけの本編だったけれど。そして、寧音がじぶんらしく生きることにやさしく寄り添ってくれるひとが寧音のまわりにはたくさんいた。
いろいろ考えてしまう本だった。