すこーん、な日々

スマホのヘルスケアアプリで歩数をチェックしたところ、夕方時点で43歩でした。ビックリしすぎてヘルスケアどころか、危うくバイタルサインが正常値を逸脱するところでした。

外に出かける機会も少なくなってはや1年以上、すっかり運動不足が定着した上に、料理したり食べたりすることがずいぶんと楽しくなってしまい、恐ろしくて体重計に乗ることができません。

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最近そこに輪をかけて、新しい楽しみを見つけてしまいました。

禁断の、お菓子作り。

キッカケは、猫沢エミさんの「ねこしき」というレシピ本を買った事でした。

愛らしい猫の写真があしらわれた、エッセイ本のような、写真集のようなそれを書店で何気なく手に取ると、紙質と本の綴じ方へのこだわりがダイレクトに伝わってきました。とても丁寧に作られた本のような気がしました。

その中で紹介されていたのが、ブリティッシュスコーンです。

なぜかこれを作ると、滞っていた問題が解決したり、気分がすこーん！と抜ける

著者の秀逸なダジャレと、美しい写真たち。

そうか、スコーンって買った事しかないけど、自分で作ってもいいんだな。

レシピを見ながらそう考えていると、「220℃に温めたオーブン」という文字が目に飛び込んできました。

そういえば、家のオーブンレンジは余熱ができるのか？

実は、2年前に買ったロースペックオーブンレンジで、オーブン機能を使った事がなく、当然余熱ができるかどうかも確認したことがありません。
何故かできないと思い込み、何なら新しいオーブンを欲しいとすら考えていました。

しかし、よくよく考えるとロースペックといえどもオーブン機能がついているならば、予熱ができないのはおかしくないか？

私は念のため、購入してから一度も開いたことのない説明書をファイルからひっぱりだしました。

激しすぎる思い込みにより、2年ぶりに明らかになった事実。

予熱、できます、200℃まで。

予熱できるレンジ。

予熱レンジ。

米津玄師。

天才かも。

私はうれしくなって、光の速さで材料と道具を買い揃えました。

薄力粉、ベーキングパウダー、無塩バター、塩、卵、牛乳など、いたってシンプルな材料で、あんなにおいしいものが出来上がるなんて本当でしょうか。

まずは、ボウルに薄力粉とベーキングパウダー、塩を入れ、バターを投入したら、両手の指先を使いながらつぶすように粉と混ぜ合わせていきます。

そっと粉に手を入れてみると、ひんやりとした冷たさと、すさまじい粒度の細かさが指先から伝わってきて、いつまでも触れていたくなる心地のよさがありました。

その後、牛乳や卵を加えざっくりと捏ねて、伸ばして、型を抜いていくその時々の過程においても、手から伝わる感覚がどれもすばらしく気持ちのいいもので、私はすっかり虜になりました。

子どもの頃、粘土遊びに夢中になったような、そんな感じ。

予熱されたオーブンレンジに、『いってらっしゃい、どうかご無事で』という気持ちで送り出した後、何度も中をのぞき込みながら、焼き上がりの時を待ちました。

チーン。

バターの香ばしい匂いとともに、立派な円柱としてふくれあがったきつね色のスコーンが9つ。これを自分が作ったとは、にわかに信じがたいお菓子然とした様相です。

さっそく熱々のスコーンを2つお皿に乗せて、いちごジャムを添えて食べました。

今日2度目の天才かも。

初心者でもこんなに簡単においしくできるなんて、スコーンとは神がかったお菓子かもしれない。

サクサクと噛むたびに小麦とバターの焼かれた匂いがする。
少し加えた塩味といちごジャムが出会い、あまじょっぱくて、本当においしい。

そこからです。

バターを有塩にしたらどうだろうか。
薄力粉を強力粉にしたらどうだろうか。
ブレンドしたらどうだろうか。
バターと粉のメーカーを変えてみてはどうか。
レーズンを入れてみてはどうか。
アールグレイはどうだ。


一度気に入ったものは毎日でも食べたいという持ち前の気質に、スコーンに対する探究心も相まって、私は日々スコーンを作り続けました。

その結果、需要と供給のバランスが崩れ、今我が家の冷凍庫には溢れんばかりのスコーンが保存されています。

供給、ストーップ。

オーブンレンジも、2年間一度も使われてなかった米津機能を急にフル稼働させられて、びっくりしているに違いありません。

作りたい、でも、食べきれない。

私は、このまま思う存分おいしいスコーンを追求し、いつか商品として誰かに食べてもらえるようになりたい、なれるかもしれない、そんな夢すら抱くようになりました。

思い込み、やっぱり激しめ。

スコーン、それはつまり。

つくる時間も食べる時間も、全ての時間が多幸感に包まれ、夢すら抱かせてくれる、素晴らしい存在。

まさにすこーん、と晴れわたる気分にさせてくれるものでした。

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