![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/54413882/rectangle_large_type_2_06a436794348c8acd28b8010c443b141.png?width=1200)
レモンへのお詫び
会社の健康診断がありました。若い頃は出張だの何だのと言い訳をして逃げ回っていましたが、今はそうもいきません。健康診断が嫌だという気持ちよりも、自身の健康に対する不安が勝るお年頃なのです。
それでも往生際悪く最終日に予約し、重い腰をあげて会社へ向かうその様は、このご時世に健康診断ができる有り難みを微塵も感じていないようで気が引けます。
臨時で設けられた会場に入り、受付を済ませるとスタッフの方が丁寧にアテンドしてくれますので、そこからは半ば自動的に運ばれていく仕組みです。
「まず、エコーが空いてますのでそちらへどうぞ」
エコーの部屋に入り、先生の指示通りベッドに横たわると、視線の先に真っ白な天井と無数の細かい穴がありました。
ああ嫌だ嫌だ、早く終えてしまいたい。
「まずは腹部エコーから行きますね」
「はい」
ジェルを塗られた後、機械で脇腹をグリグリと押しながら上下左右に動かされるそれは、痛いのとくすぐったいのが混ざり合う何とも言い難い感覚です。
無になろう、無に。
私は天井の細かい穴を1つ、2つ、と数えていました。
「では、息をおーーきく吸って、お腹を膨らませて下さーい」
先生の明るい声が響きます。
指示に従い、大きく大きく限界まで息を吸って、止めました。
20秒ほど経ったでしょうか。
息を止めているのがだんだんと、苦しくなってきました。いつまで止めておくのかなと不安を感じながら、私は我慢し続けました。
また10秒ほど経ちました。
大きく吸って膨らませたお腹も、力を入れている腕も、小刻みにプルプルと震えています。
さすがにこれは苦しいぞというか限界。先生もう無理ですと思ったその瞬間です。
「はい、じゃあおーーきく息を吸って下さーい」
ゴフッッ。
吸えるか!!
「えっっ大丈夫ですか⁈」と慌てる先生に「ええすみません、大丈夫です」と冷静を装いながら心の中で何でやねん!とツッコミつつも、そうか、“息吸って“とは言われたけど“止めて“とは言われなかったな、という結論に達しました。
エコーで精気を失った後、次に身長体重コーナーへと運ばれていきました。
ここ最近のさまざまな炭水化物祭りを振り返ると、太っていない訳がありませんので、前夜はもちろん絶食祭りです。
「靴を脱いでここに立って下さい。ポケットにスマホとか入ってたら、出してくださいね」
私はチリ1つ残さない勢いでポケットの中を入念にチェックし、ソロリとそこに立ちました。
2キロオーバー。
時速ならまだ良かったけど体重だね。
しかも絶食したのにね。
よし、しばらく夜は炭水化物を抜き、野菜を中心とした鍋を食べよう。
数日前友人が、レモン鍋を作ろうとして止めたという話をしていた事を思い出し、丁度、セールで買った広島県産の無農薬レモンを冷凍ストックしていましたので、その日の夜はレモン鍋を初めて作ることに決めました。
無農薬レモンは高いので普段買わないのですが、その時はとてもお得な値段でしたので袋買いし、何に使おうかと悩んでいたところだったのです。
確か鶏ガラでスープをとって、野菜と鶏肉とレモン入れるだけ、と言ってたな。何となく友人の言葉を思い出しながら、適当に鍋作り。
レモンは傷もあって、少し歪な形をしていますが、カットすると中にははみずみずしい果肉が詰まっていて、とても爽やかないい香りがします。
なんだかこの香りだけで痩せそう。無理そう。
1時間以上かけて丁寧にスープをとった後は、火が通りにくい具材から鍋に投入し、そして最後にレモンの輪切りを敷き詰めると、華やかな鍋の出来上がりです。
わぁ、レモンのお花畑。
いいえ、初夏の夜空に輝く、レモンの花火。
私はうっとりしながら、しばらくレモンの輪切りたちを見つめ、さまざまな角度からその美しさを写真におさめました。
初レモン鍋、いただきます♬
にっが!!!苦ッ!!!
口に入れた0コンマ1秒で、生命が脅かされると感じるほどの苦味。白目をむくどころか一周回って黒目。
爽やかなレモンの香り、圧倒的に美しい見た目、絶対美味しいに違いないという期待と確信、からのそれら全てを裏切る苦味。
驚いて、どこを間違ったのかとレシピ検索すると、そこには『煮込みすぎると苦味が出ますので注意!』と書かれていました。
うっとりしながら輪切りのレモンがグツグツと煮込まれるのを見つめている間に、事件は現場で起きていたようです。
何が花火や。
塩を少し入れて、レモンの爽やかさが効いた鶏ガラスープを存分に味わいたかったのですが、ポン酢を使って苦味をごまかすしかありませんでした。
レモン、ごめん。
美味しく食べられなくてごめん。
私は心の底からガッカリしました。
夢ならばどれほどよかったでしょう。
そういえば、米津さんがLemonで歌ってた。いろいろ共感。
#日記 , #エッセイ , #健康診断 , #レモン鍋 , #無農薬レモン , #また米津さん , #料理 , #グルメ , #フード , #ダイエット , #炭水化物