見出し画像

その日さよなら

実家のクローゼットから沢山のおもちゃが出てきた。捨てたと思っていたフィギュアやぬいぐるみなどが箱に収まっている。懐かしいなぁ、そういえばあんなのもあったような…。記憶を頼りに中を探るが、僕が思い出したおもちゃは現れなかった。流石に捨ててしまったのだろう。
楽しかった思い出と、なんとなく捨てた時の記憶がうっすらと蘇ってきた。そっか、壊れたんだ。何年も前の事なのに寂しさを思い出す。忘れてたものは、まだ僕の心に積もっているようだった。

僕たちは大人になる。大人にならなければならない。学校や幼い考え方から卒業しなければならない。同じままではいられない、繰り返してはいられない。お別れをしないと新しい出会いをすることができないから。
そうして僕らは遠くだった景色が当たり前になって、昔の景色が見えるようになっていく。
振り返ってよーーーく見ると、あのぬいぐるみやおもちゃはいつまでも手を振っていてくれる。「そんな遠くまで行ったんだね」「君ならきっと大丈夫」「まだまだ行けるね」ふとした時に鳴る心の電話から、そんな彼らの声が聞こえる。
あの日さよならしてきたから、みんな宝物なんだね。そう気づいた時に少しだけ涙が出た。
これもまた大事な時間なのだと僕は思う。

「その日さよなら」という詩を書いた。

お別れの時はいつだって突然だ。当たり前の時間も、実はカウントダウンの繰り返し。でもその時間は確かに思い出となって心に積もっていく。柔らかく決して溶けないものになって。
前を向くんだ、さよならをして。勇気を持って、さよならをしたものから離れていく。いつまでも同じ場所でうずくまっていないように。
そんなお別れと出発を書いた詩だ。

沢山のおもちゃに囲まれた男は、思い出を沢山持っている。時折心の受話器にかかってくる彼らの声援を受けながら。電車に乗り明日へと向かう。ボロボロになるまで遊んだおもちゃたちはずっと彼を見守ってくれるだろう。
そんな、僕のお気に入りの作品だ。

4年間使ったヘッドホンが壊れた。ノイズキャンセリングが使えなくなっても耳当ての部分がボロボロになっても使い続けたから、もう本当に寿命だったのだろう。よく見ると表面にも傷が随分と増えていた。お疲れ様と、ありがとうを言ってお別れをした。

また僕の心には雪のように柔らかな思い出が一つ積もった気がした。

その日さよなら

【LINEスタンプができました!】
ニヒルのLINEスタンプを作りました。
ちょっとふざけた彼のスタンプを、あなたの日常に連れていってやってください。
ご購入はこちらから↓


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?