去夏・きょか
好きな人がいた。
嬉しい事に、その人も僕のことが好きだった。
僕たちは恋人だった。一緒にいて沢山傷つけて好き勝手な事を言った。全てを許して受け止めてくれた。僕にはその優しさがきっと分からなかったのだ。どこまでも子どもだったから。離れても元に戻れるって思えていたから。
僕たちは恋人だった。そう、だった。
珍しく体調を酷く崩したまま家の酒を全て空けて二日酔いで仕事をして血尿を出した。パチンコならフィーバータイムである。
金木犀の香りがしていた。あの花がよく似合う人だったなぁなんて思い出した。夏がもう去っていった事をその香りは教えてくれた。
「去夏」という詩を書いた。
その人を想って最後の詩と絵を描いた。
秋の風が吹く頃に僕たちはもうお互いの方ばかりを見ないように生きている。大人っぽくなりたい、なんて願っていた彼女の服が靡く姿は綺麗だったのを思い出していた。きっとお互いの幸せと安全を、何処かで願い合っているのかもしれない。金木犀が香る景色の空を見て、心の中であなたへ問いかけてみた。
そんな詩だ。
この絵にその人を描こうとはしなかった。きっとしなかったはずだ。無意識に描いた人物なので、似てるか似てないかは言わないでおこう。
あの人の誕生日に送った似顔絵は、今まで描いた似顔絵で一番似ていたと思う。見たいわけではないが、写真くらい撮っておけばよかったなと思うくらいよく描けていたはずだ。あれを超える絵を描けるように、もっと精進しなくては。
少し涼しくなってきた昨今、ふとそんな大切な思い出を思い出した。
なんか今日はおセンチだねって?
隣で26年彼女がいない友人の雄叫びを聞いたんだ。そんな気持ちにもなるでしょうよ…。
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