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クッキー

森永製菓のムーンライトというお菓子をご存知だろうか。真っ青な箱に月明かりのような優しい黄色が映えるパッケージのクッキーだ。僕はあれがたまらなく大好きで、しょっちゅう2個3個とまとめ買いしてしまう。素朴だがしっかり甘く、どこか懐かしい景色を感じる素敵なお菓子である。

まだ前の職場で働いていた頃の冬だった。凍える風を振り切り家に入り暖房をつける。スーパーで買ってきたものを冷蔵庫に入れながら、エコバッグから一緒に買ったムーンライトとカフェオレを取り出す。
ベッドに座り膝掛けをして封を開けたクッキーを口にする。なんか、あったかいなぁ。優しく広がる甘さは、傷だらけの掌を少しだけ温めてくれた。ストリングスの音色が聞こえるようだった。レトロな景色が後ろに広がる。仕事頑張ったなぁ…なんて思いながらため息をつく。この後僕がするなにかしらへの元気を、確かにこのお菓子は作ってくれたのだ。

「クッキー」という詩を書いた。

寒い時期が早く訪れていたため、春がとても待ち遠しかった。当時仕事で僕が行った地方にはうっすらと柔らかい雪が積もっていて、連日天候はあまり良くなかった。とびきり赤い夕焼けが見たいなぁ、なんて思いながら仕事をしていたものだ。友人が僕に見せてくれた占いは最悪を示していて、何くそこんなものと思いながら働いていたっけか。
クッキーが食べたかった。
疲れていたのだろう。早く仕事を終えて落ち着きたかったのだ。
そんな気持ちが、この詩には良く出ている。

絵には、あのクッキーを食べた時に感じる懐かしさから、少しレトロな家電やおもちゃを描いた。誕生日が近かったから、ニキシー菅には誕生日の日付を書いている。
連日家に帰っておらず、相当疲れていたあの時の僕は安心が欲しかった。優しさを求めていたのかもしれない。仕事を終えた時に訪れる安堵、そういったものの象徴が、あの時はクッキーだったのだと思う。
だからこの絵に、クッキーは描かなかった。でも僕にとってはクッキーの絵だった。だからタイトルは真っ直ぐにクッキーとつけたのだ。

おかしな名前だって?
そりゃあお菓子の名前だからね。

クッキー



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