斜心・しゃしん
少し前に描いた絵の話をしたい。
先輩が離婚した。
塾も同じ、高校は別だったが通学路も同じ、大学に入ってからはバイトも紹介してくれた。彼は間違いなく僕の人生で最もお世話になった先輩だ。それだけ関わって来た彼だから、彼の人生のパートナーとして選んだ女性に会うことは必然だったし、結婚の話もなんら不思議に思うことはなかった。綺麗な人だった。何度か三人で食事もして、作品展にも二人で足を運んでくれた。
それでも離婚したのだ。責任を伴う契約を交わした彼らは、離れ離れになったのだ。身近で起こるその関係の破綻は、二人が大好きだった僕にとって衝撃的な出来事であった。
Blue Encountというバンドのユメミグサという楽曲、この曲の一節にこうある。「あなたはちゃんと幸せでしたか」と。先輩の一件の後に聴いたこのフレーズはなんだか特別に感じた。斜めに傾いてしまった心たちが過ごしていた時間には、確かに幸せがあったのでしょうか。二人が並ぶ写真を見て、僕は少しだけ泣いてしまった。
【斜心】という詩を書いた。しゃしん、と読む。
人肌恋しい季節に聞く別れ話は、普段より心に来るものがある。ずっと別れることを意識していた関係の糸はとっくにほつれていて、ついに切れたそれをしばらくしてから意識し始める。綺麗だった空の写真や、新しくできたケーキ屋さんも、真っ先に送りたい人はもういなくて。記憶にも記録にも残したい景色の置き場を無くしてしまった喪失感を感じている。
そんな話だ。
絵の中には、陽がさした部屋にカメラを持った男性を描いた。
彼の頭の中、影の中には散っていく思い出の花たちを。手前には切れてしまった関係の赤い糸を描いた。シャッターを切ることをためらった彼の手元のカメラは、これからどんな景色を誰に残すために存在するのだろう。そんなことを思いながらこの絵を描いた。
彼らはそれぞれ違う場所の景色を目指し始めた。それぞれの近況を見て、日常を送る姿に僕は安心する。今彼らの手元のカメラは、誰のいるどんな景色をレンズに写すのだろうか。それは送られてくるまで待つことにしよう。
あなたが今日見つけた景色は、誰に残したい景色ですか。