中2理科の化学反応式を【理解】する(16) 反応式は変化の過程を表さない
前回のお話↓
物質名反応式は平衡状態を前提とする
私は今まで,化学反応式は物質が「変化する過程」を表現したものであると思っていました。しかし,よく考えてみると,その理解は不十分だったのかもしれないです。物質名反応式は反応物と生成物の物質名を矢印で結んだものですが,この物質は平衡状態にあり,かつ純物質である必要があります。
反応物の物質名 → 生成物の物質名
(反応物・生成物は共に平衡状態かつ純物質)
高校以下の化学(理科粒子分野)では,圧力が1気圧,温度が室温で一定の平衡状態を前提にしています。これ以外の条件,例えば物質に熱を加えたりした場合は非平衡状態に移行します。非平衡状態では物質の温度や圧力を定義することができません。ですから,反応式ではこの非平衡状態の情報を全て捨て去ってしまい,単に矢印「→」記号で表します。つまり反応式には変化の過程についての情報は一切含まれていないのです。
物質名には純物質のものを使う
一方,純物質について学ぶのは中学1年生の理科「物質の状態変化」の中にある「蒸留」の部分です。蒸留の前にやっているのは,アルコールやろうなどの状態変化の実験で,体積増加を粒子概念で解釈する話でした。その後,温度測定を行っている流れでアルコールの沸点測定を行って,ワインやみりんからアルコールの蒸留を行うのですが,蒸留を粒子概念との関わりで理解しようとはしません。私は,なぜここに蒸留を置いているのかなと不思議に思っていました。
しかし今回,中2の化学反応式の部分を追っていくことで,中1状態変化の中の蒸留の必要性が見えてきました。つまり,物質は物理的な手段で分離できることを再認識しているのではないかと思われます。小学校や中1で学んだろ過や再結晶も物理的な分離手段なのですが,ここで蒸留という手段もあることを学んでいます。そして分離した物質を純物質と言い,性質が一定であることを沸点測定実験から学びます。一方,ワインなどの性質が一定ではない物質を混合物と呼び,純物質とは区別します。
物質は色や香りなど様々な性質を持っていますが,化学で扱う性質は定量的な測定ができるもの,すなわち沸点や融点,あるいは密度といったものです。蒸留実験で,アルコールの沸点は一定であることを学びましたが,これを一般化すると,純物質とはその製法によらず性質が変わらない物質であるとも言えそうです。
混合物と「+」記号の意味
純物質が別の純物質に化学変化する時,例えば外部から熱を加えると,物質は非平衡状態を通らなければなりません。その際,その物質は二種類の物質が共存している状態になるか,あるいは混合物になることが多いです。
例えば鉄の酸化実験の場合,反応が終わらないうちは鉄と酸化鉄が共存している状態になります。これは「かいろの中身」でもあります。また,混合物にも「ワイン」とか「食塩水」といった名前がついています。しかし,これらの物質名を反応式に使うことはありません。
物質名反応式では,鉄+酸素,といったように「+」の記号で純物質をつないで表現しています。私は「+」を「混ぜる」という動作的な意味だと思っていたのですが,むしろこれは,複数の純物質が一つの容器(系)の中に共存している状態,あるいは混合物という,静的な意味なのかもしれません。
まとめ
物質名反応式は反応前と反応後の物質名を矢印で結んだものであり、変化の過程そのものについての直接的な情報は含まれない。
反応物と生成物は平衡状態(1気圧,室温)でなければならない。
物質名としては純物質を用いる。
二種類以上の純物質が共存状態またはそれらの混合物は,成分となる純物質名を「+」で結ぶことによって表現する。