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中2理科の化学反応式を【理解】する(13) 質量保存の法則

引き続き,理科の教科書を読んでいます。

前回のお話↓

まとめページ


化学変化と物質の質量

1 質量保存の法則

【実験】化学変化前後の質量を測定し,変化がないことを確かめる。

A 気体が発生する化学変化

密閉した容器で実験し,化学変化前後の質量をはかる。

炭酸水素ナトリウム + 塩酸 → 塩化ナトリウム + 二酸化炭素 + 水

B 気体が発生しない化学変化

ビーカーで実験し,化学変化前後の質量をはかる。

炭酸ナトリウム + 塩化カルシウム → 塩化ナトリウム + 炭酸カルシウム

【質量保存の法則】
物質がどこへも逃げなければ,化学変化,状態変化,溶解の前後で全体の質量は変化しない。


化学反応式は予測を行うために必要

 ここでは、化学変化を気体が発生するものと発生しないものに分けて実験を行います。気体が発生する変化の場合、密閉容器を使用して反応前後で質量が変化しないことを確認します。

 実験を行う前には、必ず理論的な予測を立てる必要があります。もし予測を立てず,単に「混ぜたら、どうなるか?」などという単純な疑問に答えるために実験を行ってしまうと、感覚的な世界の変化(色や匂い、形や大きさなどの情報)しかわかりません。

 密閉容器を使用するためには、見えない気体の二酸化炭素が発生することを前もって予測できなければなりません。化学反応式は、予測を行うために必要な化学における重要なツールでもあります。

 化学反応式は矢印の左側を反応物、右側を生成物と呼んで区別します。予測を行うには、まず反応物を構成する原子は何かを確認し、その後、原子を頭の中で組み替えて新しい分子を作るという認知的な作業が必要です。教科書でも、物質名の反応式を以下のような化学反応式に書き換えています。

$$
NaHCO_3 + HCl → NaCl + CO_2 + H_2O
$$

 もちろん、原子の組み合わせ方は無数にありますが、それらの組み合わせの中から,食塩,二酸化炭素,水などの「よく知っている」身近な分子が生じるような組み合わせ方を考えると,組み合わせの数に制限がかかるので,ある程度簡単に予測ができます。

 以前、分子を教える際にその数を制限していたのは,生成物の予測を行いやすくするためだったのかもしれません。いろいろな種類の分子を知ってしまうと、むしろ予測は困難になっていたでしょう。

保存則を頼りに、見えない世界を知る

 理科にとっての世界とは、私たちが感覚で直接感じることのできる現実だけではなく、抽象的な概念や見えない世界も含んでいます。

 理科の探究は、まるで暗闇の中を航海する船のようです。手元には限られた証拠しかありませんが、その乏しい証拠をもとに思考力を駆使して世界の地図を作り上げる必要があります。そんな時、頼りになるのが保存則です。

保存則は灯台のようなもの

 保存則は、夜の海を照らす灯台のような存在で、絶対に変化しないものを意味します。灯台の位置を基準にすることで、他のさまざまな動くものの位置を知ることができます。もし灯台の位置が不安定であれば、自分の正確な位置さえも把握できなくなります。

 質量保存の法則は、化学反応式による予測を行うための基本的な原則です。物質は時折、私たちの目の前で消えてしまうように見えることがあります。例えば、紙の燃焼、塩の水への溶解、水の蒸発などが身近な例です。

 しかし、理科は目の前で起こる現象をそのまま信じるわけではありません。むしろ、質量は決して消失しないはずだ、という信念を頼りにします。この信念に基づいて、消えた質量の行方を探求する動機が生まれます。

 私たちは物質の内部を直接探索することはできませんが、代わりに自分の中に構築したミクロな原子の世界を探索します。頭の中でさまざまな原子の組み合わせを考えてみると、生成物を予測することができるようになります。その予測の中に、例えば無色透明で無味無臭の気体の正体が、炭素と酸素を元素として含む二酸化炭素である、といったことを発見するのです。

定性実験から定量実験への転換

 中学校の理科では、現実世界を原子という実体的な視点で解釈する活動が始まります。そして、ここで定性実験から定量実験への転換が行われます。

 定性実験は、色や形の変化、匂いなどの質的・感覚的な変化の観察を重視します。一方、定量実験では、数値で表される物質の量を測定することに焦点を当てます。

 小学校から現在まで、私たちはずっと定性実験を行ってきました。しかし、ここからは「質量を測り、数値で表す」という、ある意味地味な作業が始まります。

 「反応の前後で質量は変わりませんでした」という実験結果は、ぜんぜん面白くありません。なぜなら、「やってみたけど、何も起きませんでした」というように解釈してしまうからです。

 「せめて爆発でもしてくれたら、理科を好きになれるのに。」そう思うかもしれません。しかし、いつの間にか、価値観が変わっていたのです。

 理科の実験は、もはや楽しむためのものではありません。エンタメではなくなったのです。そうではなく、目に見える現実世界の奥に、自然の摂理や法則があると、まずは信じる必要があります。それが保存則です。

 そういった抽象的な世界に憧れを持ち、その世界を冒険したいという子供のために提供される、最初の基本的な冒険手段が質量測定実験なのです。

実験は概念と現実を橋渡しする

 これまで、私たちは原子を、自分の概念の世界に突然出現させました。そして原子には種類があり、その違いは質量のみによるものであると想定しました。

 原子は色も匂いも持っていません。ただ質量と大きさのみを持つ存在です。ですから、現実に原子の組み替えが起きたかどうかを確かめる手段は質量測定実験しかありません。原子は実験によって現実とつながりを持つ存在になるのです。

次回はこちら↓


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