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実体的な見方と状態変化

実体的な見方の起源

 学習指導要領理科編には,「理科の見方・考え方」という言葉が出てきます。理科の見方とは,様々な事象を捉える理科ならではの視点のことであり,理科の領域ごとに特徴があります。物理・化学・生物・地学の中で,化学は「粒子領域」と呼ばれており,粒子領域の見方の特徴として「質的な見方」と「実体的な見方」があります。

 実体的な見方とは,「見えないけれど,ある」と捉える見方のことです。この見方の訓練は,小学校から始まっています。例えば小5「ものの溶け方」では食塩を水に溶かして消えて無くなったように見えても,実はあるのだ,ということを学びます。

 この実体的な見方の起源は何でしょう。今,ここに壁があったとします。この壁の端から,「何か」が出てきたのが見えたとしましょう。それが何であるのかははっきりとはわかりません。

 その後,その「何か」が消えてしまった時,私たちは壁の向こうに「何かがある」と考えてしまいます。そして,その「何か」を,自分の記憶の中から探し出して勝手に想像し,それを対象に当てはめてしまいます。

実体的な見方の起源

 物質が変化した時も同様に考えることが,状態変化を理解するポイントになります。つまり実験を行なったら,その結果に対して自分で主体的にいろいろな想像をしながら,その実体と思われる「何か」を考えてみることが大切です。では次に,状態変化に関する実体的な見方について考えてみましょう。

状態変化の実体的な見方

 小4「すがたを変える水」では,氷→水→水蒸気という,水の状態変化を扱います。児童は氷と水の違いはわかりますが,見えない水蒸気も「ある」と考えることは難しいです。実験や観察を通して,見えないけれど水蒸気もあるのだと理解します。

 さて,ここでは「水」という言葉が拡張され,物質名として捉え直されます。これまでは,「水とは液体で,手に触れるとヒンヤリするものである」という感覚的な理解をしていました。ところが,固くて冷たい氷,液体の水,見えない気体である水蒸気,の3つの違った性質を持つ物質は,実は同じ「水」という名前を持つ物質なのである,と一括りに理解されます。

 すなわち,「水」という言葉に2重の意味が生じます。液体の水を指す感覚的な意味に加えて,固体・液体・気体の物質に共通する「物質名」としての意味が出てきます。これは感覚によってもたらされるものではありません。むしろ思考によって捉えられたものです。

実体的な見方とは「見ること」ではない

 中1では「物質の状態変化」において,ろうやエタノールなどの状態変化をもう一度扱います。小学校との違いは,状態変化を粒子概念によって解釈することです。

状態変化を粒子概念で解釈する

 水に限らず,他の物質も固体,液体,気体の3つの状態になる。この三態に共通しているものは一体何だろう?この疑問への答えは,実験・観察から知ることはできません。そうではなく,自分の心の中に創り出す概念の世界で,粒子が運動している様子を想像し,それを現実世界の中に投影することによって状態変化を解釈します。

 物質の状態の違いは,粒子の運動状態の違いである。そのような「想像」を巡らせた時に初めて,3つの状態に共通する「何か」とは,この粒子のことなのではないだろうか,と理解されます。この粒子概念も,感覚とはつながっていません。現実を説明するために,思考によって作り出された概念です。

 このように,理科では感覚的な理解から離れて,思考による理解に移行していかなければなりません。「実体的な見方」とは「見えないものを,視覚を通さずに,思考によって”ある”と解釈すること」であるとも言えそうです。

まとめ

実体的な見方とは、「見えないけれど,ある」と捉える見方のこと。

  • 「水」という物質名は,氷・水・水蒸気の3つの物質の共通点を考えることによって得られた概念である。

  • この共通点の背後に,さらに粒子を想像することで,状態変化を説明できる。この粒子概念も感覚から得ることはできず,思考によってもたらされる。

  • 「実体的な見方」は「見えないものを、視覚を通さずに、思考によって”ある”と解釈すること」と言える。



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