新刊「プロジェクト活動」のススメ はじめにを公開
こちら、明治図書から3月に出版される2冊目の著書「『プロジェクト活動』のススメ」のはじめにを公開いたします。
この1冊は、ボクの教員最後の5年間、そしてヒミツキチ森学園での4年間に生まれた物語です。
ある夜の記憶
六年生の担任をしていたある年、9月を越えても全く手応えがなかった。
教室で活躍する子は一握り。クラスを引っ張る存在もなかなか出てこない。よく言うと大人しい、悪く言うと自分を表現できず消極的、そんなクラスだった。
なんとなく自分自身もワクワクする感じがしない。いや、そんなふうに担任のボクが子どもたちを信じられなくてどうするんだ。葛藤を抱えながら日々を過ごしていた。
その日は珍しく遅くまで仕事して、いつもの川沿いの道を自転車をこいで帰っていた。家族にドーナツでも買って帰ろうか、そんなことを考えながら。
気づくと夜空が見えた。知らない誰かに声をかけられている。
「おーい、大丈夫ですか?」
「は、はい…」
辺りを見ると、ボクの自転車が転がっている。タイヤも曲がっている。
「あれ、どうしたんだ」
手にはちょっとだけ、血もついている。
状況を整理してみる。怪我の状況を見ると、ボクは倒れて、記憶を失ってしまっていたらしい。
フィクションではない。これらはすべて本当の話だ。
どうにもならないクラスの状況。迫り来る六年生の一大行事。
どうやら、ボクはだいぶ疲れていたみたい。川沿いの道、街灯がない暗闇の中で、自転車をこぎながら眠ってしまったらしい。眠ったまま自転車とともに車止めにあたり、吹っ飛び顔から落ちて、擦りむいた。ヘルメットをかぶっていなかったら、命も危なかったかもしれない。
その後、妻に連れられて病院に行った。頭を打っている可能性が高いと言われ、MRIも撮った。生まれてはじめて、テレビでよく見るあの輪っかの中に、ドキドキしながら入った記憶は今も鮮明に残っている。
ドーナツを買って帰ろうと思っていたのに、自分がドーナツの中に入ったな、そんなアホなことを思いながらも、検査結果を待つ間、気が気じゃなかった。
結果は…異常なし。
病院を出る時にしみじみと思った。よかった近くに人がいなくて。そして、涙ぐむ娘を見ながら、助かってよかったと。
同時に感じたのは、このままじゃダメだという焦りだ。学級担任をしていると、クラスの浮き沈みを感じることがある。沈んでいる時期が長ければ、こちらに焦りも生まれる。この時はまさに追い込まれていた。
その後の一大行事もなんとか乗り切った。乗り切ったものの、クラスにはまだ勢いはない。毎日続けてきたコミュニケーションが功を奏し、どの子もいろんな子としゃべれるようになっていた。だけど、それだけだ。行事が終わると、いつもと変わらないちょっと後ろ向きな雰囲気。決して何かが変わったわけじゃない。手応えは依然としてない。
六年生の一年間を絶対に後悔してほしくない。でもどうすればいいんだろう。
クラスが遂げた急成長
だがそんな自分の想いと裏腹に、クラスはその後、急成長を遂げる。
10月を越えたあたりから、それまでが嘘のようにクラスがまとまり出した。
ボクが勤めていた小学校の自治体では、当時六年生は体育大会に参加していた(今はないらしい)。代表選手が陸上競技で交流するのに加え、みんなで表現運動を披露する。そしてもう一つがクラス最高記録を目指す3分間の長縄記録会だ。ボクらのクラスは300回を目標に長縄に取り組んできたが、当日までは284回が最高だった。
まとまっては崩れ、崩れては団結しながらも、クラスは踏ん張った。
大会当日は目標を超える301回の「クラス最高新記録」を出し、子どもたちとハイタッチしながら、大いに盛り上がった。4回目の六年生担任、当日に最高記録が出たのは、これがはじめてだった。嬉しかった。
小学校には10年おきを目安に創立○周年を祝う「周年行事」がある。クラスが選んだ取り組みは、ボクの苦手なアートだった。でも勢いに乗った子どもたちはここでも力を合わせ、みんなが満足し、観た人が驚く作品をつくり上げることができた。お祝いの映像が完成した時、体育大会とは違った達成感があり、みんなの喜ぶ顔があった。
一年生との仲もグッと深まり、教室の中で涙が出る心あたたまるシーンも現れ始めた。学習の中でも、これまで目立たなかった子たちが前に出てくるようになった。
ボクが怪我したからクラスがまとまった?
いや違う違う。怪我のことは子どもたちにも話していない。当時の六年生にこの本の中でインタビューしているのだが「やけに顔に怪我していた日があった」ことだけは覚えていて、笑いながら妙に懐かしがってくれていた。
冷静に振り返ると、二つの要因が見えてくる。
一つは、クラスで積み上げてきたものの成果が出てきたのだと思う。これについては、前著『先生が知っておきたい仕事のデザイン』にまとめておいた。
ペアをつくること、対話すること、振り返りの積み重ね。何より先生と子どもたちとの間にたくさんのやりとりが生まれ、学級が変わっていく…そんなデザインの方法を書いた。一日の流れ、一年の流れについて、学級経営を起点にわかりやすく書いたので、まだ読んでない方はぜひ読んでもらいたい。
そしてもう一つがこの本に書く「プロジェクト活動」だ。
「プロジェクト活動」こそが、クラスをじわじわと変えていった。
学級経営に力を入れて取り組む中で、係活動を、会社活動に、そしてある時期からプロジェクト活動にと、ネーミングを変えていった。会社活動はご存知だろうか。学校中の教室をくまなく見てみれば、一つぐらい会社活動をやっている教室があると思う。いつから広まったのか、「発足、解散が自由」な係活動と認知されている。
最初知った時は画期的だった。でもいくつかしっくりきていない点もあった。係活動の域を出ないこと、そして高学年の活動が停滞することは変わらなかった。
ボクは、係活動をなんとかしたいと思っていた。
「高学年って係をつくっていても、みんな忙しいし委員会などもあるし、難しいのよね」
周りの先生は、総じてそう言っていた。高学年になると、この活動が重荷になってしまうのだという。
ただ、思う。本当にそうだろうか。
学校の中で「子どもたちのやりたい!」を形づくれるものは多々あるけれど、係活動ほど堂々と認められているものはない。係活動だけは、毎年全クラスやるし、大体子どもたちが自由に好きなことをしている。
ちょっと考えてみてほしい。
あなたの授業の中で、休み時間もワクワクしながらやり続けちゃう学習ってあるだろうか。そう、あんまりないはず。むしろ休み時間にも無理にやらせていた活動が記憶に残っている方も…。ボクだってそうだった。
でも係活動だけは、毎年どの教室でも「やらなくちゃ」より「やりたい!」が上回っている子が必ずいるんじゃないだろうか。それも一人や二人じゃなく大勢いる。
そんな子どもたちがワクワクしている活動を高学年になっても取り組める楽しい形にできないか。そんな係活動を、「プロジェクト活動」と名付けて実践を重ねてきた。
記録を見ると、2012年あたりからプロジェクト活動を試し、2016年あたりからプロジェクト活動として年間を通じての実践に取り組んできた。
そしてこの年、プロジェクト活動がクラスをも変えていく手応えをつかむことができた。
そうMRIに入ったあの日、一つ変えられるならと決心したのは、このプロジェクト活動だった。その後の取り組みで、高学年だからこそ、プロジェクト活動が輝くのも検証できた。
ここ10年ほどの実践で生まれたこと、つかんだことを、この一冊でみなさんにお届けできたらと思う。実は今ボクが先生をしているヒミツキチ森学園でも、このプロジェクト活動は続いている。そんな地続きの実践も伝えられたら嬉しい。
プロジェクト活動をすることで、係活動の時に感じた閉塞感が解消されて、子どもたちが前向きに取り組めるようになる。
実行委員と係活動を混ぜ合わせるなど、学校の時間に余白を生み出せる。さらには一人の好き・熱狂から始まり、みんなに認められることで、子どもたちが生き生きと輝き出す。当事者であるつくり手が増えていき、学級によい影響をもたらすようになる。まさによいことずくめだ。
プロジェクト活動は新しい取り組みではない。今ある係活動に少し手を加えるだけで始めることができる。
どうせ毎年やる活動。だったら、面白い活動に変えてみるのはどうだろう。
この本の読み方
この本の読み方を、簡単に説明しておく。
1章は理論編。プロジェクト活動にすることを、学習指導要領だって推奨しているはず。そして係活動との違いやその変化についてまとめてみた。
2章はプロジェクト活動の始め方。この章を見てくれれば、全く知らない方でも始められるようになっている。最初の一時間のボクのクラスの様子も詳細に描いておいた。
3章はプロジェクト活動で起こったこと。ここではさまざまな事例が出てくる。今、プロジェクト活動について懐疑的な方は、ぜひこの章から読んでほしい。ボクのクラスで起こったエピソードから、前向きなエネルギーを感じてもらえたら嬉しい。
4章はプロジェクト活動を支えるクラスづくりについて。この章が大事だ。やり方だけを真似しても変化は起こらない。在り方を変えていこう。そして長期的に変えていくための方法を書いている。
5章は応用編。先生仲間が教室で取り組んだプロジェクト活動や、ボクがヒミツキチ森学園で学習に応用している例も書いている。総合的な学習の時間など広げていく視点をもちたい人はこの章も読んでほしい。
巻末にはQ&Aとして、活動の際に感じる難しさへの対応策をまとめておいた。
やり方だけじゃなく、在り方があなたに届いてほしいと、真剣に書き切った渾身作。
あなたのクラス、学校の係活動がよりよいものに、そしてその向こうにいる子どもたちのワクワクした笑顔につながりますように。
それでは、お楽しみください!
今日も読んでいただきありがとうございました。
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