(詩)いっぴきのかげろうが

「きみ、いい目をしているね」

「きみの方こそ、
 きれいな目をしているね」

かげろうが
そこにいたこと
さっき、そこに
かげろうがいたこと

いっぴきのかげろうが
ぴっしゃりと
背すじを伸ばし
一本の草の肌につかまって

いっしょう、けんめい
はあはあ
息をはいたり、吸ったり
心臓をドキドキさせたり

キョロキョロ、キョロキョロ
この世界中を
見まわしたり、していたこと

この銀河系や
宇宙のすみからすみまで
ちゃんと、見ていたこと

もうすぐ
おわるなんて知らずに
生命におわりが
あるなんて知らずにさ

自分がいなくなる、なんて
意味もわからずに

おわり、という言葉なんて
本当は、存在しないように

さっき、かげろうが
そこにいたこと

いつまでも、いつまでも
そこにいるつもりで

そこに、さっき
いっぴきのかげろうが

ぼくの顔を
じっと見つめながら

とまって、いました

「きみ、いい目をしているね」

「きみの方こそ、
 きれいな目をしているね」

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