(詩)あかぎれ

今朝電車の中で
おじさんを見たよ

おじさんは
大きな荷物を
引きずっていてね
長くて黒い髪をしていてね
ひげぼぉーぼぉーでね
服が真っ黒でね

電車の席を
独り占めするみたいにして
座っていたんだ
だけどそれは
おじさんが意地悪
していたわけじゃなくて
だってね

みんながおじさんから
離れていたから
いつもなら
他人を押しのけてまでして
イス取りゲームするみんながさ
今朝に限ってみんな
おじさんを囲むみたいにして
でも離れていたんだ

なにしろおじさんのにおいが
どうにもきつかったから
だけどみんなも
悪いわけじゃないとわかる

おじさんは大きな
サンダルを履いていたけど
靴下を持ってないらしくてね
おじさんの足は
たくさんのあかぎれで
いっぱいだったんだ

あかぎれで
それはいっぱいの
あかぎれがいっぱいで
おじさんの足は
風船みたいに
パンパンに
膨れ上がっていたんだよ


やっと駅に着いて
電車のドアが開いたら
みんなはさっさと
逃げるように
降りてしまった

からっぱになった
電車の中には
風だけが吹いていた
それは凍りつくような
風だけが

だからもう
うそはやめるよ

見て見ぬふりだとか
とりすました顔をしてだとか
気取ってとか
訳知り顔だとかってさ

そんな大人の
うそはもうやめるよ

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