(詩)悲しみ
わたくしという
よごれた魂が
新宿というよごれた街の
地下道の脇に作った
ダンボールの
家の中で眠っている
人々は
わたしを哀れみ
軽蔑のまなざしを向け
時に追い立て
通り過ぎてゆく
それでもわたしは
この街の夕暮れを愛する
この街のむさくるしい
夏の人波の中を
駆け抜ける風を愛する
ホコリにまみれた
こんなわたしの
頬さえやさしく
撫でてゆく風よ
唯一の逃げ場所である
夢の中でだけ
微笑みを浮かべ
ふいにさされた
蚊のいたみで目を覚ます
わたしの掌の中で
絶えた蚊の生命さえ
いとしく思う
わたくしという
けがれた魂が
吉原というけがれた街の
ネオンの波をこの
肉体一つで泳いでいる
エデン、パラダイス
シャングリラ、ユートピア
まばゆい看板の文字が
夢のように悲しい空間を
さざ波のように染めている
それでもわたしは
特殊浴場の個室に飾られた
一輪の花が好きだ
電信柱にとまって鳴いていた
夕暮れの蝉の声が好きだ
本当はがっかりしたくせに
この年老いた
わたしの肉体を
無理やり遊んでくれた
哀れなる男たちが好きだ
それでもわたしは
幾重にも罪を重ね
罪を重ね、よごれた
女たちの肉体を愛する
わたしを産んでくれた
あなたを、愛する
いつまでも、いつまでも
愛しつづけることができる
わたくしという冷酷な魂は
そして
泣き叫ぶ
幾千万の人々を前に
なすすべもなく
心を閉ざしてきた
この罪の報いを受け
いつか燃え滾る
太陽の炎に焼き尽くされ
やがて宇宙の灰と化し
未来永劫
終わることなく
この宇宙の果てを
さまよいつづけてゆくだろう
だから
あなたが困った時は
いつでもわたしの名前を
呼べばいい
わたしはあなたの
涙の粒からうまれ落ち
いつでもあなたの
身代わりになるから
たとえば
新宿の路上生活者に
たとえば
吉原の売春婦に
たとえば
「かみさま」
誰もがわたしを
こう、呼んでいる
わたくしの名前は、神様
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