(詩)思い出のさなぎ
好きな女の子と
さようならした日の夜
いろんな無数の夢を見た
懐かしい
たくさんの人が
現れては消えていった
けれど不思議に
彼女の姿はなかった
きっと記憶にも
整理する時間が
必要なのだろう
美しい思い出に
変化するための
さなぎの時間
どうりでそれから
むしょうに美しい音楽を
聴きたくなったり
やたらに美しい風景を
見たがったりすると思った
一体どうしたんだろう
ぼくの目も耳も
どうりで簡単に
ぽろりと涙が出ると思った
ふいに楽しく笑っている時に
どうりで突然
息が苦しくなると思った
突然わけもなく
狂いそうになって
気づいたら
だれか、たすけて、と
叫ぼうとしていた
そのたびに
見えない世界の中で
純化されてゆく
記憶のかけらたち
だれもが
ひとりぼっちで
この苦しみにたえてきた
誰かを好きになった者なら
誰もが通過する
美しい思い出に
生まれ変わるための
さなぎの時間