シェア
たとえば 卒業式の日のように たとえば 東京行きの列車に乗る日 いなかの駅の ホームに立つ時のように そこでふるさとの 最後の夕焼けを あおぎみるように また夢を失い 東京を去ってゆく日の 早朝の 東京駅のプラットホームに たたずむ時のように そのやさしいしずけさに 身をまかすように たとえば、そして また或いは ひとりの女の子と別れ けれど何年かして また別の誰かを 好きになってしまう 瞬間のように たとえば人が この世界を去ってゆく時を ひとつの卒業と 呼びたい
いい風が吹いていた 丸でわたしを呼ぶように だからいつか帰ろう あの海のにおいのする 風の中へ わたしのふるさとへ
前世紀 グラディスナイトは うたっていた そのハスキーボイスを うならせ 「さよならは悲しい言葉」だと だけど ほんとうのこと、いうとさ さようならは 素敵な言葉なんだ さよならは、魔法の言葉 人々がいつも 誰かの危篤の知らせ 耳にする時 何をおいても すぐに駆けつけるのは そんな習慣が いつまでも続いているのは 人々のくらしの中に はるか昔から続いてきたのは 人は出会ったすべての人と さよならを交し合いたいから いつも生きていることさえ 忘れていても 一番最後に
土曜の夜の飛行機は何だか切ない わたしの大事な人が乗っていて 何処か遠くヘ行ってしまいそうで 街灯かと思ったら夜行列車 土曜の夜の夜行列車も切ない 夢を抱いて上京した少年が 夢敗れ帰郷する侘びしさに似て ネオンかと思ったらカルーセル 土曜の夜のカルーセルは特に切ない 憧れの少女が一回りしたら 大人の女になっていた夜のようで 土曜の夜に誰かとさようならする時 わたしはどんな乗り物に乗りたい? さようならと気付かれずに 去ってゆけるように たとえば土曜の夜の船に乗りたい
少女が笑う 春の予感 背中にかくした羽根が うずうずしている はじめて会った時のきみは 天使に見えたよ だから思わず デートに誘ってしまった 春の予感 だけど まさかこんなになるなんて 知らなかったから どうして人は 涙の泣きだめも 笑顔の笑いだめも できないのだろう 冬の間に もっといっぱい 泣いておけばよかった 初恋が失恋で終わった時 あんなにいっぱい 泣いたのになぁ きみが笑う 春の中で だけどもう その背中のどこにも 羽根は見つからない ぼくが むしり
灯りは誰を待つ 来るはずのない人待っている 星は誰を待つ 帰ってはこない誰かを待っている 木は誰を待っている 風のような少女を ブランコは誰を待っている 風のような少年たちを ベンチは誰を待っている 離れていった恋人たちを 象さんの滑り台は誰を 子どもたちのお尻の温もり待っている そしてぼくは きみを待っている
若い頃 小学校のそばの アパートに住んでいた 休日の 土曜日の朝の眠りの中で 子供たちの声が聴こえた 古い木造アパートで トイレは共同で風呂もなくて 隣りには愚痴ばかりこぼす 一人暮らしの老人が住んでいて 失恋した日は アルバイトを休み 夕暮れまで ぼんやりとひざをかかえ 校庭を見ていた 時にはみんなに いじめられた誰かが 逃げ場所をさがし やって来て アパートの階段に腰をおろし 涙を流したり 突然の激しい夕立に にぎやかな集団が 雨宿りをしにやって来た そんなア
恋をするといつも ビートルズを口遊みたくなる でもラストソングは The long and winding road だから俺の恋は 失恋ばかり? でも 慌てなくていいんだよ 運命の人(きみ) ラヴソングは The long and winding road 俺なら死ぬまで 待っているから
ワニさんの失恋ある日川岸で 困った顔の少女がひとり どうしたの? 向こう岸に行きたいの……。 ワニさんは少女に一目惚れ 大丈夫、ぼくにまかせて 背中に少女を乗せ スイスイ、スイスイ ワニさんは川を泳ぎ 向こう岸まで運んであげたのさ でもある日 少女は恋人を連れてやって来た ガーン 失恋のワニさん でも顔で笑って心で泣いて ワニさんはふたりを乗せて 川を渡ってあげたとさ ワニさんの抱擁ワニさんカップルは スキスキ、スキスキ スキすぎて 抱擁したい 思いっ切り、抱きしめ
傘を持つ人にも雨が降る 傘を持たない人にも雨が降る 心の綺麗な人にも雨が降る 心の醜い人にも雨が降る 静かな雨、激しい雨 もしも心の雨が涙なら 涙よ、いっぱい降れ 涙にいっぱい濡れて 心の綺麗な人になりたい 雨が降る 心の綺麗な人にも 心の醜い人にも やさしく雨が降っている
誰かと別れても さっさと別の 新しい人を見つけ うまく付き合ってゆける そんな人を見ならって 器用に生きてゆければ こんなふうに さびしい想いをしたり 人前に不様な姿をさらして 生きることもなかったろう そんなふうにいつも 新しい誰かを探して あたりを見回してみる時 人込みの中に 素敵な誰かを見つけようと 見渡してみるけれど やっぱりいつも ぼくはどうしても あなたを 思い出してしまう あなたのことを どうしてぼくたちは 出会ったのだろう どうしてあなたは ぼくの
どうしてそんなに あなたはつよいの きみはぼくに聴くけど きみのせい、だよ きみに会ってからだよ どうしてそんなに きみは強いのか、と あなたはわたしに尋ねるけれど あなたのせい、よ あなたに会ったときからよ そんなふうに互いに けれど口には出さず ただ黙って 見つめあうふたり 東京駅 のぞみ或いはひかり、と 名付けられた新幹線 プラットホームのかたすみ どうしてそんなに あなたはつよいの きみはぼくに聴くけど きみのせい、だよ やっぱり きみがいるから、だよ
点った灯った涙の光 降って積もった涙雪 泣けるだけ 子どもの方が潔いかもね 大人はぐじぐじ、うだうだ するばかりでさ ほたるの光、窓の雪……って 今じゃネオンライトがまぶしくて 勉強どころじゃない、大人はさ 下手に社会人なんぞなっちまうと なかなか勉強も卒業も 上手く出来なくなって ある日突然やって来る卒業に おろおろ、おろおろ、右往左往してさ みっともねえ いい大人が涙なんぞ零してさ ほたるの光、窓の雪……って 大人は子どもの卒業を ちゃんと見守り、見届けなきゃね
はじめて この星に降り立った時に 乗っていた夜行列車は 銀河系を越えてやってきた 銀河の長い長いトンネル 幾数千万の星屑 生命ねむる銀河の海の底に たえまなく続く こどう、またこどう 夜のしおざいの中に 揺られながら はじめてこの星の プラットホームに 降り立ったあの日 わたしがそれまで 果てしない旅の間 腰をおろしていた あの夜行列車の 窓辺とシートに わたしが 忘れてきてしまったものは 忘れてきてしまったものを もう思い出せない そして この星に降り立った瞬間