シェア
死にたいきみへ 生きていたくないきみへ もしもおれがきみの 心臓の鼓動なら 今すぐにでも 止まってあげたい でもおれはただの 人間の屑だから おれが海なら きみの好きな夏の海でさ そっときみを つつんであげたい 生きもせず かといって死にもせず ただ 夏の空の下で つつんでいてあげたい おれがきみの、涙の海ならば
いとしかった人の面影にも 雪が降り積もればいいのに 純白のけがれない雪が しずかにしんしんと 幾夜もかけて いくえにもいくえにも 降りしきる雪の中で それを思いつづけている わたしさえ 気付かぬうちに まるでこわれた映写機のように それをただいたずらに いつまでも映し出す わたしの心の大地へと 思い出もいとしさも 記憶も感触もぬくもりも ふるえもこどうもといきも 交し合った さようならのことばも I love youの言葉さえも しんしんと降りしきる 雪の日々の中で
わたせるような あいだがらでもないのに ふとそのオルゴールを 十二月のデパートで見かけた時 なんだかあなたに 思い切ってわたせそうな気がして ピアノのふたを開くと バレリーナが踊る メロディにあわせて 夢見るように バレリーナが踊り出す なんだかあなたなら よろこんでくれる感じがして 買ってしまったオルゴール 「おくりものですか?」 いいえ、あ、はい ピアノのふたを開けると バレリーナが踊る メロディにあわせて 夢見るように バレリーナが踊っている いつまでもいつ
チョコレートをもらったとか もらわなかったとか 本命だとか義理チョコだとか 浮かれた平和な国民たちが クリスマスに引き続き お菓子会社の戦略に まんまと踊らされた女の子たちが まぬけな顔して たそがれの商店街で チョコレートを買う頃 街には冷たい雨が降り始める 聖バレンタインにお似合いの すきとおるような 雨のしずくがこぼれだす 今夜は聖バレンタイン 女の子が好きな男に チョコレートを渡す日 けれどチョコレートより かさを下さい 傷ついた少年たちに こんな夜はチョコレ
線路に飛び降りた人影が 線路上を逃げる 駅員が追いかける、追いかける 駅員の数が増える ひとりまたひとり 電車はもう何分も前から 各駅に止まっている 駅のホームに放送が流れる 「大変ご迷惑をおかけいたしますが 今上野駅の線路に 人が飛び降りたもようです」 線路に飛び降りた人影が 線路上を逃げる、逃げる 白い息を切らして ひとりぼっちで ひとりぼっちのこの世界の中を 逃げるのを駅員が追いかける ひとりまたひとり 駅員の数が増える 純白の雪が 線路をぬらして降りし
都会のかたすみ さびしくひとり ひざをかかえ くもった窓ガラスの 小さなすきまから 降りだした白い雪が見えた 家の灯りに反射して なんだかものしずかな クリスマスツリーの またたきのように見えた 昔少女がギター爪弾き 唄ってくれたしずかな クリスマスソングを思い出す いときよらかに そして 貧しい家のぼくを 励まそうとしてくれた その少女のやさしさが満ちあふれ クリスマスケーキ おかしのいっぱいつまった サンタクロースの長靴 煙突といったら お風呂屋さんの煙突しか 思い
(一) 杖をついた老人が ふと立ち止まり その杖を 白いガードレールにかけて ガードレールに 腰をもたれながら 空を見上げる ああもう何年、 何十年ぶりだというように 空を見上げている (二) 今きみが見上げている空が青空なら その空の青さと 遥か遠いこの場所で 今おれが見上げている空の青さとが おんなじ色ならいいのにね まるできみとおれの心が ひとつにつながっているみたいにさ もしもこの世界中の空の青さが 同じひとつの色ならばって そんな日もたまにはあるだろ こ
(一) 冬の青空が 透き通って青いのは 寒くなればなるほど 空気が澄んで その分悲しみの純度も上昇するから 冬の空を見上げると 息が詰まるのは 心の息も 白く切なくひび割れるのは そういうわけです 頭の上はいつも青空 (二) 寒さにたえかねて 思わず見上げた、空は青かった ガラス越しに見た 真冬の青空 寒さが磨き上げたような 青だった (三) 空を見ると、元気が出るね 空が青いと 寒くても、貧しくても ハローワークの待合椅子 窓から見えた冬の青空
冬の夜が好きだった 夢ばかり食べて 居眠りしていた頃 澄んだ星座を見上げては ひとりぼっち だれもみな 帰る星がある、と信じた だからただかなしいのは 会えなくなることだけ、だと はじめて 自分用の部屋をもらって はじめて 自分用のストーブをつけて くもった窓ガラス拭いては 星ばかり見ていた だれもみな いつか会えなくなるのが 辛くなるよな誰かと めぐり会えると信じていた ふりしきる粉雪を よりそいじっと黙って 見ていたいよな誰かと めぐり会うこと 夢見ていたあの頃
明日は雪が降るように ぶら下げたゆきゆき坊主 きれいな銀河のまたたく夜に 空の上の 雪の子どもたちは 見てくれたかな わかった、わかった やさしく うなずいてくれたかな それともやっぱり 照る照る坊主と まちがえたかな ゆきゆき坊主って どんな顔してるか知らないから 照る照る坊主のまねして こしらえたんだ やっぱり ゆきゆき坊主は 雪でできてなきゃ 効いてくれないかな 明日目が醒めて もしも空が晴れていたら お姉さんは言うだろうか よかったね 照る照る坊主のお陰だよ
夜の海辺にお前の肌を重ねて ウミネコにお前の涙重ね 海が鳴く時 生命の重さが沁みる夜に 一人を選んだわたしの人生の愚かさが お前の笑みをこわす時 夜の海辺に雪も降り頻る その凍り付くよな海辺に 佇んでいた記憶があれば 残された冬の日々も生きてゆける わたしなら 夜の海辺が降り積もる雪に凍り付くまで 楽しげに笑おうとしても 泣きそうな顔になってしまう そんなお前の夜の海辺は 夏よりも冬が似合った
くもった窓ガラスのむこう 葉を落とした 針葉樹の枝のすき間を 木枯らしがかけ抜けてゆく どこかで聴こえる鳥のさえずり 人影のない路地のたたずまい すべての生命が 今はいねむりしていそうな そんな冬の午後のしずけさ ふたり見ていた くもった窓ガラスにかいた ドラえもんの顔が 少しずつこわれてゆくのを それがどうしようも ないことだと 知らないふりをしながら ドラえもんの顔が とうとう泣き出しそうな 顔になったので ふたりして笑った けれどほんとうは すき、とかきたか
ある冬の晩 昼の間子どもたちがつくった 雪だるまがふたつ 肩を並べ 吹雪の中に立っていた 雪が少しずつほほについて だんだんと ふくれっ面になるので 雪だるまたちは 互いの顔を見て笑いあった その透明な笑い声は 子どもたちの夢の中にさえ 響いていた けれど次の日 一日中まぶしい陽が差して 雪だるまたちは融けていった とけてゆく互いの顔を わざと見ないようにして ことばでだけ とうめいなさようならを 交し合って彼らは別れた ねえ、ぼくたち 子どもたちのつくった 雪だるまを
その年老いた猫は 夕方から家の屋根の上にのぼり ずっと空を見ていた 屋根の下ではいつものように 夕ごはんをあげようと 仲のいい少年が その猫を探し回っていたけれど 一番星が顔を出し 街に灯りがまたたきだし いつしか空には 満天の星が輝いて 少年は猫を探すのをあきらめ 家の中に入った やがて少年が眠りにつく頃 遠い銀河のかなたから とうめいな夜行列車がやってきて 列車は猫のいる屋根へと 静かに停車した その晩からもう誰も その猫の姿を見ることはなかった ただその