行列に並ぶために行列に並ぶ
第171回芥川賞の候補作にもなっている尾崎世界観さんの「転の声」を読んだ。
作中の世界では、アーティストのライブチケットの転売が市民権を得て、いまだ賛否はあるけれど、転売ヤーがもてはやされ、アーティスト自ら転売ヤーに売り込みをする。
転売されればされるほど上がり続けるプレミアに群がる人々と、自らのプレミアに重きを置くアーティスト。
ねじれにねじれた歪なプレミア志向は、好きな音楽を楽しみたい、というそもそもの目的から大きく逸れて、あらぬ方向へと向かう。
みんなが良いと言うものを良いと思い、みんなが悪いと言うものを悪いと思う。
行列のその先にあるものを求めているのではなくて、みんなが並ぶその行列に並ぶために行列に並ぶ。
自分の感性なんかはほったらかして、自分の意見は空っぽで、より大きな声に同調をして、転がるように寝返って。
そんな馬鹿馬鹿しい昨今の風潮が、巧妙な言葉選びと遊び心、アーティストである著者ならではの視点も存分に交え盛大に皮肉られていて、自分の中にもうっすらと、いや、はっきりと心当たりがあるから終始苦笑いが止まらない。
フォロワーやいいねの数、顔の見えない誰かの評価ばかりに踊らされてはいないだろうかと胸に問う。