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よく晴れた、なんの予定もない一日

なんの予定もない今日は、クローゼットを大々的に整理しようと決めていたのに、あんまりいいお天気だったから、思わずスニーカーを履いて外に出た。

日差しはしっとりやわらかい。どこにも行きたい場所はないけど、気の向くままに歩いてみよう。

このところ気分が落ちこみ気味で、ずるずる怠惰を引きずっていたから、ここらで気持ちを切り替えたかった。

クローゼットを整理しようと思い立ったのもそういうわけで、だけど今は自分の気持ちに素直になろうとひとまずあとまわし。

そう言えばATMに用事があった。ちょうどいい口実を得たわたしは軽やかに歩みを進めた。

二台あるATMの前には、どことなく苛立ち顔の数人が列を成していた。

よく見れば先程から右側の機械を老婦人が占領していて、片側しか流れていない。あとの予定が迫っているわけでもないのに、なんとなくわたしも苛立ってくる。

ようやく自分の番が巡って、用事を済ませたところで右側から呼び止められた。

ある手続きの操作がどうしても上手くいかないのだと、ひどく申し訳なさげに眉を下げる婦人に、先程までの自分の狭量さを反省しつつ、感じよく答えることができた。役に立てた自分がほんのりうれしい。

30分ほど歩いて、駅前のショッピングビルに入ったカフェで休憩することにした。

少し早いお昼にしようとトマトパスタに狙いを定め、カウンターのメニュー表に視線を落とすと、よりによってそこだけsold outのシールが貼られている。

完全にトマトパスタの口になっていたわたしが他の選択肢を迷う間の時間稼ぎに「これって売り切れなんですよね」とダメもとで尋ねてみれば、店員さんは厨房を振り返りなにやら相談したあと「ひとつだけなら出せそうです」という。

アンラッキーなのかラッキーなのか、どちらにしてもトマトパスタへのありがたみと店員さんへの好感度はうなぎのぼりだ。

平日のまだお昼には早い時間、店内は空いていて、老婦人の二人連れとベビーカーを押した女性以外はみなひとり客だった。

テーブルの上でパソコンや本を開き、静かにひとり時間を過ごす人たちの中で、そこは妙に居心地が良かった。

まるで、気を許し合った人たちがひとところに集って、各々のやりたいことをしているような。

常連客が集うアットホームな店というわけではない。どこにでもあるチープなチェーン店だ。

もちろんまったく知らない人たちばかりで、会話も、視線さえ交わすことはなかったけれど、なぜだかわたしは一人じゃないと、そう思った。

同じ道を辿って家に帰り、去年の今ごろに思いを馳せる。あのときもわたしは落ち込んでいた。

今の落ち込みには思い当たる原因があるけれど、去年の落ち込みにはこれといった理由がなかった。理由があってもなくても、冬に向かうこの季節には、なんとなくもの悲しい気持ちになるのだ。

どうやってやり過ごしたんだっけと去年の日記を開いて、結局まるまる一年分を読んでしまう。

一年を俯瞰すると、深刻なものからくだらなすぎる悩みまで、その時々でいろいろに心を囚われ、落ち込んではどうにか前を向き、あるいは思いもよらないできごとに助けられ、今日まで生かされてきた軌跡が見えた。

しんどいこともあったけど、素敵なこともたくさんあった。だからわたしのこれからを、もう少し信じてみようと思った。

そうこうしている間に時間は過ぎて、クローゼットの整理はもちろん、その他の家事も必要最低限しかできないままで夜になる。

陽を浴びて身体を動かしたせいか、布団に入った瞬間強い眠気が降りてきた。なんて気持ちがいいんだろう。散らかったままのいろいろは、やる気が出たら片付けよう。

大したニュースはないけれど、いい一日だった。

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