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令月のピアニスト

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情報化が先鋭化し、効率的な過ごし方をみんなが共有する時代になっても、自分の気持ちだけは誰とも共有できない。密集とコミュニケーション種類の多岐化・複雑化・深化は引力が強いがゆえに心…
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#ピアノレッスン

『令月のピアニスト』6/13 十日夜(とうかんや)から満月までの5日間

『令月のピアニスト』6/13 十日夜(とうかんや)から満月までの5日間

「これじゃ全然わからない。矛盾だらけだしぃ」
 予感は的中し、起爆スイッチが押されていた。クライアントを前に、粕賀が啖呵を切ってしまった。しかも40代後半の管理職にため口である。
「ふざけないでくれたまえ」
 憤怒の爆煙から顔を突き出した管理職は、頬を紅潮させている。

 クライアントはお金も出すが口も出す。多くのクライアントがそうだ。お金は出すが口は出さない神対応のクライアントは今では噂さえ聞く

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『令月のピアニスト』5/13 Take the A Train

『令月のピアニスト』5/13 Take the A Train

 開いた『イマジン』には五線譜の上にコードが書かれている。曲の出だしはCで、次はF。Cはドミソ。Fはドファラ。ギターで知った知識だ。それをピアノにあてはめてみる。右手親指でド、同じく人差し指でミ、薬指でソ。指は、それぞれの鍵盤の上にある。あとは3本の指を同時に振り下ろすだけだ。
 ジャン。たしかにCの和音。
 ドファラのF、ジャン。うん、これこれ、この音。だがこれはまだ曲じゃない。でもそれは、千里

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『令月のピアニスト』4/13 不覚事件が引いたトリガー

『令月のピアニスト』4/13 不覚事件が引いたトリガー

 連休が明けると、遅い出社と遅い帰宅の毎日に戻っていった。休みのあいだ何をした記憶も残っていない。テレビを観て消して、コンビニで食いもん買って食って容器を溜めて大きなゴミ袋をふたつ作り、10回眠ったらいつもの仕事に戻っていた。
 納期から逆算して組むスケジュール、バッファを確保するのはバグほか不慮の事態に備えてのこと、部署のスタッフ5人を束ねての進捗管理、仕上がったプログラムの確認作業。責任感に背

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『令月のピアニスト』3/13 実力がないがゆえの手詰まり

『令月のピアニスト』3/13 実力がないがゆえの手詰まり

 5月の大型連休がはじまるまで五月晴れならぬ卯月晴れの勤務日がつづいたが、休みに入るととたんに雨。吸い込む空気さえ湿気を帯び、おまけに梅雨寒みたいに気温が下がったせいでベッドから離れられない。

 妻がいなくなって3週間ほど過ぎていた。台所を磨く者もいなくなり、残された1本の歯ブラシがこめかみの疼きにのせて哀愁を深めていく。フローリングの床に発生した埃の塊が、日に日に増殖していった。
 不思議なこ

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『令月のピアニスト』2/13 去る者とやって来る物

『令月のピアニスト』2/13 去る者とやって来る物

「田所さん、お電話。松元さんという男の人から(♪)。よく電話をくれる方ですね」
 末席の粕賀がいつもの調子で私語のない職場に能天気な声を響かせる。
 カタカタとキーボードでテキストを積み上げては、ツツツーとデリート、打ち直してはゴールに向けて黙々と流れていく時間に無駄口はいらない。とくに今日みたいな日には鬱陶しさに輪がかかる。余計なことは言わんでよろしい。

--仕事中悪い。すぐ済むから少しいいか

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『令月のピアニスト』1/13 無自覚の不覚

『令月のピアニスト』1/13 無自覚の不覚

 ふだん外飲みしないぼくが、久しぶりに深酒をした。忘れるための酒ではない。カミュは太陽のせいにしたけれど、月がひときわ地球に接近していたことが関係していたかもしれない。月の引力に潮流が引き上げられたことで、我を譲らぬネオンが重なり、浮き足だった繁華街に蠢く雑多な欲望と駆け引きにぼくはまんまと担がれたのだ。
(スーパー・ムーンのせいさ)と路地の奥から声がした。
「月の誘惑。狼男だって、満月に導かれて

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