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「未来のだるまちゃんへ」と、かこさとし展

今、渋谷にあるBunkamura ザ・ミュージアムでかこさとし展が開催されている。

かこさとしさんは、「からすのパンやさん」や「だるまちゃんとてんぐちゃん」で知られる絵本作家。名前にピンと来なくても、きっと誰もが一度は見たことがあるのではないかと思う。私も、子どもの頃に「からすのパンやさん」を読み、こんがりつやつやに焼けたいろいろな形のパンが並ぶ見開きページに魅了されたひとりだ。

展覧会の開催を知り、お盆休みに行こうと決め、せっかく行くのならと、図書館で見つけたかこさんの著書に感銘を受けたので、展覧会の感想と共にご紹介したい。

その一冊の本とは「未来のだるまちゃんへ」という、かこさんご自身の語りをもとにした自叙伝。かこさんの幼少期から絵本作家に至るまでの軌跡と、何を考え作品を生み出してきたのかがつづられている。これから展覧会に行く方にも、一度でも絵本に触れたことのある方にも、ぜひおすすめしたい一冊だ。

文中の言葉を「」で借りながら要約する。

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かこさんは、1926年生まれ、本名は中島哲(なかじま・さとし)。
第一次世界大戦が1914年から1919年、第二次世界大戦が1939年から1945年という時代背景からもわかるように、「戦争のあしおと」とともに幼少期から青年期を過ごしている。

19歳で敗戦を迎え、何の反省もないまま新しい時代を謳歌しようとしている大人たちに失望。加えて、安易に軍人を目指した自らの「後悔と慙愧、無知、錯誤の恥ずかしさ」を胸に、「先に逝った仲間たちのぶんも生きて、自らの誤りを償」うことを決める。「これまでの自分は、昭和二十年(終戦の年)で死んだのだ。ここから以降は、余生である。」という表現に強い覚悟が色濃い。

それでも、何のために生きているのかと自問自答する日々の中、大学のサークル活動で出会った子どもたちの「遊びの中でいきいきと命を充実させ、それぞれのやり方で伸びていこうとする」様を見て、生きることは「本当はとても、うんと面白いこと、楽しいこと」だと気付かされる。

その後、かこさんは会社員をしながら地域のセツルメント(ボランティア活動のようなもの)で子どもたちのために作り続けていた紙芝居がきっかけとなり、39歳で絵本を出版。以降、絵本作家の道を歩むこととなるのだが、そこには常に一貫して、子どもたちの生きるちからを伸ばすためのメッセージを届けるという信念があった。

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本書を読む前と後では、昔無邪気に親しんだ絵本たちがまったく別の存在として立ち上ってくる。

かこさんは、子どもは大人たち以上に鋭い観察で、いろいろなことに関心を持ち、いろいろなことを感じながら生きる術を身につけようとしている、と分析する。

「だるまちゃんとてんぐちゃん」のもととなった自身の父親とのエピソードにも、子どもが自然と受容しているせつなさと観察とが表れている。絵本をもう一度を読み返すと、だるまちゃんの胸の内とだるまどん(だるまちゃんのお父さん)の想いの交錯に胸が締まる。

科学絵本シリーズは、科学者としての顔も持つかこさんが、自ら調べ内容を決め、図絵を使ってまとめ上げたもの。子どもたちが「世界に対して目を見開いてそれをきちんと理解して面白が」れるようにという想いが込められている。

面白おかしい話にしたり、きれいな色やかわいらしい絵で気を引こうとしても、人間が描けていないと子どもたちは承知しない。そんな「生身の子どもたち」と「人間と人間の真剣勝負」で培ったものが、かこさんの絵本には凝縮されている。


展覧会には、青年期から晩年までのかこさんの作品がずらりと並ぶが、改めて画風の幅広さに驚かされる。
青年期に描いた人や風景の油絵に始まり、「からすのパンやさん」のような単純化した愛くるしいキャラクターがあるかと思えば、「どろぼうがっこう」に見る力強い墨筆のタッチがある。その一方で、科学絵本シリーズでは、恐ろしく精密な図絵を用いている。

ご自身で「子どもたちへのメッセージを絵入りで示しているうちに、たまたま」絵本作家などと言ってもらえる立場になったと語っている通り、メッセージの伝わりの良さを第一に表現を選択しておられ、作家性へのこだわりを感じさせないところも清々しい。

展示された絵を見ながら、かこさんを「絵本作家」という言葉の持つ表層的な意味の中に片付けてしまっていた自分の大間違いに気づくと共に、「余生」を子どもたちの未来のために投じた生き様を心底かっこいいと思った。

今回の展覧会と一冊の本は、大人になった私に、もう一度、かこさんの絵本たちと出会うきっかけをくれた。中島哲という人間との出会いをくれた。
かつての自分もそうだったように、子どもは大人をじっと見ている。
それはまだ言語化できない中での、人間て何、生きるとは何、という問いの眼差し。
その答えを生きることで示しているか。
そんな声を聞いた気がした。

参照文献:未来のだるまちゃんへ 文藝春秋出版
参考:かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと


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