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歪んだ真珠、「バロック」って?

私がイタリアで勉強しているのはバロック時代の声楽。オペラ歌手とは違うバロック声楽を専門に勉強している。今日はその「バロック音楽」とはなんぞやという話。

noteで難しい話はしたくないので、簡単に説明してみたいと思う。

バロックってなに?

バロックとはポルトガル語で"barocco"、「歪んだ真珠」という意味。16世紀末から17世紀初頭にかけてイタリアで誕生し、ヨーロッパ全体へと広がっていった芸術、文化の様式である。

日本では、関ヶ原の戦いで徳川家康が石田三成に勝って江戸幕府を開始した頃。

なんで、歪んだ真珠?

そもそもバロックとは美術用語として用いられる。バロック時代の前、ルネサンス時代の美術において重要視されていたのは「均整のとれた、バランスの良い美」だった。

ここで私の大好きな、サンドロ • ボッティチェリの「柘榴の聖母」(Madonna della Melagrana)を見て頂きたい。

このバランスの良さ!真ん中に虚ろな顔したマリア、その腕には受難の象徴である柘榴を手にしたイエス。同じく悩ましげな表情をしている。そして周りには6人の天使たち。

美しいなぁ、特に右から2番目の天使にご注目下さい。

いまこの絵を見ているあなた、目が合ってるでしょ!この天使には絵の前の世界と絵の中の世界を繋げる役割があるらしい。

この温度を感じない、人間味のない美しさに一目惚れした。

さて、この作品が描かれたのが1487年頃、ルネサンス時代。

では次に1606年頃、バロック時代に描かれた同じ聖母子像を見てみよう。

全然ちゃうがな。ボッティチェリの作品とひと目で違いがわかる。

はっきりとした光と影のコントラスト、止まった時ではなく、流れていく時間の中でその瞬間を大袈裟に表現するのがバロックスタイル。

私は最初「肉々しいな」と思った。「肉々しい」という言葉が存在するのかわからないが、人間の肉の温度、体温が伝わるような感じがしたから。

ルネサンスの整ったバランスや理性的な表現よりも、強い感情や情熱を歪に表現したのがバロック。それで「歪んだ真珠」と名が付けられた。

余談だがこの絵の作者、カラヴァッジョはものすごい短気で殺人事件を起こしたこともある。

彼の作品は、綺麗よりもどろどろしたような部分が多くて、特に人の表情がなんとも言えない。

この、本人の自画像ではないかと言われている「病めるバッカス」の表情…

この顔からいくつの感情を読み取れる?

怖ぇぇ

バロック音楽

では音楽はどうなのか。

バロック音楽の時代は1600年から音楽の父、バッハが死んだ1750年まで

ちなみに有名なモーツァルトが生まれたのはその直後、1756年。ベートーヴェンは1770年。

ルネサンス時代の音楽はポリフォニーという複数のパートを決まったルールに基づいて重ね合わせて演奏する方法が多く用いられた。この時代の音楽は感情よりも整った美しい音楽を追及していた。実際ポリフォニーでの歌は各声部が別々に歌うので歌詞が伝わらない。

調和と美を重要とするのは美術も音楽も同じだったのね。

そこで訪れるバロック時代!

ルネサンス後期から、歌詞が分かりずらい、感情表現に欠けるというポリフォニーのデメリットから脱却するために別の演奏様式が生み出された。

ホモフォニーである。なんやそれ。

簡単に説明すると1つの声部が主役を担う、つまり歌詞を歌う。そんであとは脇役。

これで聴き手に歌詞が伝わるようになった。

そしてとてもとても重要なポイント。

オペラの誕生!

ついにオペラが誕生した。演劇ではなく、音楽を使って人間の感情や人生、神々の物語を表現するようになった。

音楽の美しさはもちろんだが、"感情"の表現を一番重要とした。

ルネサンスからバロックに時代が移り変わり、均整な美しさから一転、ダイナミックに音楽で表現される舞台は斬新で人々を惹き付けた。

ほんとにざっくりだけどこんな感じ。

つまりルネサンスの音楽が、メロディーやリズムといったクラシック音楽の基礎を作り、バロック音楽でさらに発展し土台となったと言える。

バロック音楽はより激しく、人間が本来持っている感情、喜怒哀楽を音楽で表現したのだ。

どう?結構面白くない?

音楽と美術両方で時代の流れが読み取れる。

でもこれをイタリアで勉強するのはとてもとても難しいのですよ…

今回はざっくりとした流れだけ。次回はバロック音楽にだけ焦点をあてて説明してみたいと思う。

写真はヘラルト • ファン • ホントホルストの音楽会(1623)

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