金曜20時までの恋人① 〜始まり〜
「次の金曜、夜20時まで。恋人になってくれない?」
土曜の深夜、中目黒にあるクラブで出会った女の子は、日曜の朝9時過ぎに、僕が寝ているベッドの真っ白なシーツにくるまりながら、妙な提案をしてきた。
「金曜の20時……今週?」
目頭をこすりながら、考えているふりをして、実際は昨夜のことを思い出そうとしていた。
この子とは、何もしていない。
期待のこもった目を輝かせてこちらを見ている彼女を、細く開いたまぶたの隙間から、こっそり観察する。
この子はいつの間にシャワーを浴びたのだろう。
昨夜のキツめな目の化粧はきれいに落とされ、よく見ると中学生のようなあどけない顔をしている。
「金曜までって言っても、平日は仕事だし、恋人らしいことと言えばメッセージのやり取りくらいしかできないかもしれないよ。あとは仕事終わりに少しだけ会うとか」
僕が淡々とそう告げると、彼女は「へ?」とでも言いそうな顔を作って、
「そこ?恋人になってって言ったことは、すんなりオッケーなの?」と言って、きゃきゃっと笑った。
言われてみればそうなのか。
面倒なことではあるが、恋人関係うんぬんよりも、スケジュール調整を気にした自分は、とことん感情の欠落した人間に思える。
「別に良いよ。暇だし」
あくびを堪えてそう言うと、彼女は顔の横に両手のピースをくっつけて、にんまり笑った。
ホテルのバスローブを着ている女性には、なんだか似合わない仕草だった。
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