日記 | 坊主とアニキとおしゃれ部屋。
もうほとんどわたしの執筆部屋と呼べる存在になったカフェで、今日も長編の推敲に精を出していた。
このカフェは、平日であれば貸し切り状態。土日であっても席が足りなくなることはない。
流行ってはいないけど、自分の世界に没頭する人の拠り所となっていて、おしゃれなのに、長居が許される。
最近はどんなに空いている時間でも、ファミレスは長居禁止の札を立てられていてパソコンを開きづらい。ドリンクバーだけで何時間も居座る人よりはお金を使って、サクッと作業して帰るつもりだけど、毎度へんなロボットに睨まれている気持ちになるから、最近は行かない。
その点、行きつけのカフェは、二時間もの間、客はわたし一人ということがよくある。いよいよ帰ろうと立ち上がると、店員のお姉さんは心細そうな顔をして、「帰らないで……」と訴えかけてくる。(気がする)
そんな清らかなカフェに、今日は二名のヤンキーが紛れ込んでしまった。
初めはもちろん、ヤンキーだなんて知らなかった。
たまたまわたしの隣の四名がけが空いていて、そこに坊主頭の青年がやってきた。そしてテーブルの横に立ち、入口から目をそらさず直立不動に。
(気になるんじゃが……)
思いを飲み込み、作業に集中する。いや、出来ない。
ちらちら青年に視線を向けて「兄ちゃん、座れや!」と心の中で叫ぶ。
10分はそんな状態で、いい加減、坊主のオブジェにも見慣れてきたころ、突然坊主の硬直が解けた。何事かと思ったら、案外見た目は〝今どき〟の男が、ひどいガニ股で歩きながら店に入って来た。おそらくこの人は坊主の〝アニキ〟だった。
アニキは苛つきながら、ソファ側の席に座って、坊主に早速文句をつけ始めた。どうやら、お騒がせ坊主は何かをやらかしたらしい。
アニキは苛つきながらも、自分がこの店にどう見てもふさわしくないと感じた様子で、やたら落ち着かなそうにして、イライラをつのらせている。
「おまえ、失礼だからなんか買ってこいよ」とアニキは言った。
さすがアニキは洞察力がある。このカフェは、先にレジで注文・会計をして、席に運んでもらうシステムなのだ。
さらにアニキは、隣の変な女が、作業に集中していると見せかけて、自分たちの話を盗み聞きしていることに気がつき、坊主が注文を終えるやいなや、席を移動してしまった。
(さすが、アニキや……)
だけどアニキ、ちょっとまって。その半個室、使うの?
わたしは常連だから知っているが、その半個室はなぜか人が住めるくらいのスペースがあり、めちゃくちゃお洒落なのに用途がわからず、多くの客が敬遠する部屋だった。たまに、子連れのママさんがランチ会のために集まっているのを見て、正しい使い方されてる!と、ほっとしてしまうようなスペースなのだ。
そこに、ヤンキーが二名て。
(だめだよ、アニキ。そんなシャレた部屋を反省部屋にしちゃ……)
声を落として話し合っている様子ではあっても、時々その部屋からアニキの大きな声がする。
「おまえ、まじやばいな!」と呆れたように演技ががった笑い声を上げるアニキ。いったい、何の話をしているんだ。
(なんのはなしですか、アニキ……!!)
もう、ぜんぜん集中出来ない。こうなったら帰るしかないのだけど、帰り際、トイレに行くふりをしてアニキの部屋をチラ見した。するとアニキはソファに横になって、居心地良さそうにくつろいで坊主に説教をしていた。
今後、アニキと坊主が常連になったらどうしよう……。
なんのはなしですか。