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いのちが
「成長が止まってるね」
体の左側しか見せない人は言う。
目の前にいるのに、私に話しかけているのか、パソコンに話しかけているのかわからない人。
こんな人の言葉を信じていいものなのか。
「早めの処置が必要になります」
私にとって左半身しかないも同然の男は、私から何かを奪うつもりのようだ。
「念のため、1週間後にもう一度診ましょう」
あぁ、この意味はわかる。
1週間やるから、心と体の準備をしておけという意味だ。
さっきまで談笑していた看護師がいつの間にか隣にいて、神妙な顔をしている。
ここでは一日のうちに何度か必要となる表情なのだろう。
「また、1週間後、ね。」
看護師の一人は、私の背にそっと手を当てた。
温かい手だ。私の手はこんなにも冷えているのに。
待合室で会計を待つ間も、自然と流れ出る涙は止まらないが、どうやらここは泣いてはいけない場所らしい。
ここは、泣くにはふさわしくない。
もう生きていないものを腹に抱えた人間は、そそくさと出ていくべきところなのだ。
職場に電話をしなければ。私は、私の中に起こったものすごく大きな出来事を、ものすごく小さいことと扱う人達に説明しなければならない。
いま私は、渋谷のスクランブル交差点の真ん中で、立ち止まって泣き叫んでみたい。
混乱を招く私を、誰かが捕まえにくるだろうか。捕まえられたら、私は悲しみを吐き出す。
こどもをうしないました あなたたちはしらないでしょうが このはらのなかにせいめいをやどしていました しょくばにいえるしゅうすうではないため ひっそりとつわりにくるしんでいました あなたたちはきづかなかったでしょうがまいにちたべるものにきをつかっていました ひえないように からだをまもっていました あなたたちにはいえませんでしたが このさきにおこることにきょうふとふあんをかかえながらすごしていました だから よくあることとか またできるよとか ばかなことしたなとか じゅうにんにひとりはけいけんすることだとか しったようなくちをきかないでください いきたこともしんだことも まるでなにもなかったようにすごすことをきょうようしないでください わかってくれとはいいません いいませんが すこしだけないてもいいじかんをください
すこしだけ
せめて なかせてください
流れないこどもは掻き出すんだよ
この子にまた会える?
もう会えないの?
そんなこと
知るか
[完]