恋愛カウンセリング (ショートショート)
「どうして、それが恋だと思ったんですか?」
皮膚科の受付をしている20歳前後の女の子は、眠そうな上目遣いで私に質問をする。
その問いに返事をする前に、私は待合を見渡す。
かなりお年を召した男性が熱心に週刊誌を読んでいる。
小さな女の子。それに、その子に小声で絵本を読んでいるお母さんがいる。
受付にはもう一人女性がいるが、奥の部屋でカルテの確認に精を出している。
一通りの状況確認が済んだところで、私は彼女に言った。
「なんというか。頭がごちゃごちゃとして、なんとなく思考がまとまらなくなって…」
受付の女の子は、先程よりやや顎を前に突き出した姿勢で、はっきりした二重まぶたを2mmほどおろしてこちらを見ている。
「というか、皮膚科の受付でどうしてこんなこと聞くんですか?」
もっともなことを小声で口にしながらも、もう少し突っ込んだ質問も欲しくなっている自分がいた。
「だってあなた、盲目だもの」
盲目って。『恋は盲目』みたいなことを言っているのかしら。
もちろん、症状としての「盲目」ではないだろう。だってここは皮膚科だから。
「盲目まではまだ…。だけど、いつもと違う思考パターンになっていることとか、普段より集中力に欠けるとか。そういうことがきっかけで気づいたのかもしれないです。」
女の子はなにやらこそっと書き込んで、もう一度私を見上げた。
なぜ私はこの子にこんな話をするのだろう。それでも、椅子に座ってもう少し詳しく話したいような気分にはなっていた。
女の子は言う。
「これから、支障をきたすこともあるんでしょうね」
私は考える。
そんなに危険な恋に足を踏み入れたつもりはない。
「今やめるわけにはいかないんです。なんというか、すべては繋がっているから」
私はそれだけ言うと、保険証と診察券をバッグにしまって、帰る支度をした。
受付の女の子は、そんな私の手元に一度は注目したが、次の瞬間には全く興味を失って、頬杖をついて何かの作業に戻った。